#49 学食は大広間と化す
「痴情のもつれ……?」
俺と華音は思わず顔を見合わせる。玲香と会長の一件は知っているが、それ以外のメンバーについては何も把握していないので驚くばかりだ。でも会長も、「痴情のもつれ」と言った大貴に対して目を丸くしている。ん? これはつまり、誰が何を把握してる状況なんだ?
「えーと、大貴はなんで痴情のもつれだと思ったんだ」
「え、あ、それは、うん、何か、勘」
俺の言及に大貴はしどろもどろである。まぁこいつの勘は妙に鋭い時があるから、分からなくもないが……。
すると、会長がゆっくりと手前の椅子を引いた。
「多分、ここにいる俺達は直接の利害関係にはないはずだ。だから、可能な範囲で情報共有をしないか。俺は自分のこと以外は何が何だかさっぱり分かんないんだ」
「お、おう」
こういう時、やっぱり会長は頭の回転が早いというか冷静である。推理小説の大広間に全員集まって犯人探し的な場面で、司会的立ち回りができそうな奴だ。大貴もゆっくりと椅子を引いて腰掛ける。続いて俺は会長の、華音は大貴の向かいに座った。
「まぁ、まずは言い出しっぺの俺から始めるか。……どれくらい知ってるかは分かんないけど……俺は夏休みの旅行中、玲香に告られた、んだと思う」
「「知ってる」」
「え、京汰も華音も知ってんの」
「まぁ、風の噂で……」
俺だけ除け者? とむくれる大貴に、華音は申し訳なさそうに答えた。会長は華音が知ってることに驚いていないようだ。「マジか俺びっくりだわ」と大貴は目を見開いた。「え、どういう経緯で……」と続けて言いかけるが、「いいや。まずは続けてくれ」と大貴が促す。俺は「告られた、んだと思う」の部分がめっちゃ気になったけれど、大貴に倣って続きを促した。聖那さんに勇気づけられたんじゃなかったのかよ、おい。
「んでまぁ、俺女子からの告白とか初めてで、どうしていいか分かんなくなっちゃって、で3週間くらい返事を保留しちゃったんだけどさ、一応決心がついて了承の返事をしようとしたんだ。……でもいざ2人で会ってみたら、返事を言う直前に玲香から『忘れてくれ』って言われて、そのまま俺は呆然として今に至る」
「ま?!」
俺は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。「相談乗ってもらったのにごめんな」と会長が謝ったが、まさか忘れろと言われるのは想定外である。そうか、それで顔が死んでたんだな。でも玲香はなぜ今更忘れろと言ったんだ?
気になったが、きっと会長の方がもっと苦しんでいるだろう。傷口に塩を塗るべきではない。
「……とまぁ、これが俺の持ってる情報だ。大貴は何かあるか」
「あぁ……うん。会長がちゃんと打ち明けたから、俺もきちんと言わないといけないよな」
そう言いつつも、大貴はちょっとしんどそう。華音がすかさず「無理しなくてもいいんじゃ……」と助け舟を出したけど、大貴はそれで決心がついたらしい。本当に華音ちゃん優しくて、また俺の中で好感度が上がってる。
「えっとな。……実は俺、カレンが好きなんだ。でも告白できずにいる。なんでかっていうと、カレンは別の相手に片想いしてたらしくて。しかもその片想い相手に好きな人いたみたいでさ。わざわざそれを俺に言ってくる辺りで、もう脈ないんだなって思ってる」
そして大貴は、勘と状況を元に編み出した推理を俺達に話してくれた。どうも仮説では、カレンの片想い相手は巧らしい。でも巧が誰を好きなのかは知らないとのこと。
「大貴。えっと、これ言っていいか分かんないから一応オフレコにしといて欲しいけど……仮説の一部は正解だよ」
そう言ったのは華音。実は度々女子会を開いていたの、と華音は白状した。
「まぁ、最近はカレンと玲香は共演NGなのか……一緒に集まることはなかったんだけど。でもカレンと私で会った時に、『巧が好き』って言ってた」
「カレンと玲香が共演NG? それはなんでだ」
大貴の疑問に、会長が「俺のせいだろう」と言った。玲香が告白もどきをしてきた瞬間をカレンが見ていて、気まずくなったのだろうと。
「じゃあ、話をまとめると、玲香は多分会長が好き? で、巧のことをカレンが好きで、カレンのことを大貴が好きなんだな」
「で、巧からのベクトルと玲香の本心が分からんということだ」
俺と会長がサクッとまとめる。言葉にしちゃえば数分で終わる内容だが、まぁ何とも複雑な相関図ができてしまったこと。
予想外の事態に4人でしばらく頭を抱えていると、会長が言った。多分、巧は玲香が好きだと。「へ?」とまたしても素っ頓狂な声を出す俺を軽く睨んで黙らせてから続ける。
「多分、この相関図は“よじかんめ”のメンツだけで完成している。巧のバイトは家庭教師で同僚との関わりはないし、生徒に手を出すことはありえない。文化祭実行委員会も今は大貴の方が忙しいんだろ? だとすると巧の想い人はきっと大学のサークル以外の場所にいる。他の授業で一緒の女子の可能性もあるが、それなら少なくとも、俺ら男子には『あの子が可愛い』だの話すんじゃないか? デートもするだろ。そしたらきっとカレンは、女の勘ってやつでその影に気づく。それなら告白を諦めるか、玉砕覚悟で告白するかで、玉砕しても自分なりに消化するだろう。それができずに告白をして、予想外の事実に驚いて思わず大貴に電話してしまった。……でも巧の想い人が玲香なら一連の出来事に説明がつく。……ただなぜ彼女が『忘れて』と言ったかは未だ判然としないけどな」
数学の証明問題でも解くように仮説を披露した会長。その淀みない説明は名探偵さながら……と言っている場合ではない。彼の心の傷もまた深いのである。それなのに、こんな悲しい結末をよく
とりあえず大貴の言うとおり「知恵の輪レベルの痴情のもつれ」が生じているので、まずはクールダウンのためにも“よじかんめ”は一旦活動休止することになった。華音は「本借りないと行けないから図書館行くね!」と1人消えていく。
男だけになった所で、俺は疑問を口にした。
「なぁ。巧の想い人がこのメンツにいるなら、なんで華音って選択肢は考えられないんだ?」
「「バカかお前は」」
なぜだ。なぜ俺は会長と大貴の2人から同時にバカ呼ばわりされるのだ。
「京汰は華音のことが好きってことくらい、俺らはみんな分かってる。わざわざ恋敵になるほど俺ら子どもじゃないしな。でも玲香とカレンに関しては全然読めてなかったってだけなんだ」
なぁ会長、と大貴が言うと「そうだな」と返ってきた。
あ、もしかして俺は隠すのが下手すぎました? このメンツの前では隠せてると思ってたんですけど?
ってか大学生になってもまた恋敵になってきた悠馬って……。
まぁそれは置いておこう。そもそも人外と人間を並列に見てはダメだ。
何だかんだで大人っぽい恋をして傷心の2人に、俺は「「まぁ気長に応援してるぞ」」とエールを送られるのだった。
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