#42 なんかあっさり解決しそう
「おっす会長」
「お、おっす京汰。今日はどこへ——」
「じゃあ行くぞ」
「だから目的地はっ」
「言ったらお前絶対来ない気がするから」
「それは誘拐——」
「黙ってろ」
それ以来、会長はふっつりと黙った。俺は彼の腕を引っ張り、ズンズンと歩いていく。悠馬には「先に帰ってて」と伝えると、素直に『分かったー』と言って姿を消した。妙に素直だなあいつ。
会長の授業終了後に大学の最寄り駅で待ち合わせた俺達は、約束の場所に行くのだ。
……と言っても俺も初めての場所なので、電車を降りてからは地図アプリで確認しながら歩いていく。相変わらずダンジョンだなこの駅は。
「おい京汰、道間違えてねえか」
「間違いねえ。安心しろ」
「いやここどう考えてもママに怒られそうなば——」
「ママママ言うんじゃねえっての! 黙ってろぉぉ」
まぁ、会長が怖気づく(?)のも無理はない。
そう、周囲の看板はグラマラスなお姉さんとかミニスカートのお姉さんの写真ばかり。でもそれが何よりの目印だ。俺はその一角にある看板を見つけて、そっとドアを開けた。確かに日中はカフェのようだ。
「いらっしゃいま……って京汰くんじゃん! 来てくれたのー?! え、また違う系統のイケメンまで連れて。なになに、面接かな?」
「聖那さん違うから! 俺達ただの客です! その、聖那さんに相談があって」
「えーお客さんかぁ。でもいいや。相談事ってなーに?」
「おい京汰、マジでお前を信用していいのか」
「大丈夫だ会長。俺を信じろ」
「あ! 会長って……! あの噂の会長ね! 京汰くんのこと、『帰宅部のくせにモテてた』って言って
「俺の心象悪すぎませんか……?」
別に噂ではないだろう、と心では真っ当なツッコミを入れる間に、聖那さんが俺達を中に案内してくれた。会長は初っ端からタジタジのご様子。聖那さんの格好は既にグラマラスなお姉さんなのだが、店の形態としては一応、まだ未成年が入れる程度には健全である。
聖那さんに事のあらましを話すよう、俺が会長に促した。頼んだメロンソーダをちびちびと吸いながら、奴は昨日の電話の内容をそっくりそのまま聖那さんに伝えた。
「はんはん、なるほどね。……会長くん。そういう時は、自分に素直になれば自ずと答えが出てくるものよ」
「素直、ですか」
「そう。よーし、聖那お姉さん、今から会長くんの心の中を暴いちゃうわよっ」
会長くんは完全に引いている。そして俺をチラリと見る。……大丈夫だ。きっと大丈夫だ会長。俺を信じろ。
「まず1問目。告白されてから、玲香ちゃんのことが1日にどれくらい浮かびますか」
「うーん……朝起きた時、ご飯食べてる時、授業中、通学時間、風呂入ってる時、寝る前、寝てる間……」
「はーい、1日中ねおっけー。2問目。玲香ちゃんをおんぶした時と、玲香ちゃんに抱きつかれた時。その時会長くんには反応がありましたか?」
「反応?」
「物理的な反応よ」
「物理的?」
「やだもーう、会長くん! そ、そんなこと、このお姉さんの口から言わせる気? 京汰くんフォローして!」
マジか、と思ったが、察した俺は会長に説明する。「なっ…………///!」と耳まで赤くした会長は、「多分、あったかもしれません……いや、抱きつかれた時は確実にありました……」と白状した。俺はここで、なぜか瑠衣の性癖を聞かされている気がするのだが気のせいだろうか。
「よし、じゃあ最後の3問目。玲香ちゃんが会長くんから離れちゃった時、『え、もう?』って一瞬でも思いましたか!」
なんじゃそりゃ。
だが会長ももう、恥というものを全て捨てたようで。
「はい! 思いました! すっげえ思いました! 俺も抱きしめちゃいたいなとか軽く思ってました!」と清々しいコメント。
聖那さんはにっこりとして、「聖那お姉さん、暴いちゃった。会長くんはホルモンレベルで玲香ちゃんが好きね」と、夕方にしては結構攻めた発言をぶちかます。暴かれた張本人は「聖那さん……ありがとうございます! 俺やっと自分の気持ちが分かりました!」と感激のご様子。「京汰もありがとな!」と握手された。普通に好きじゃねえかよ玲香のこと。自信がなかっただけだなこいつ。
「じゃあ、そろそろお姉さん、危険な人になっちゃうから。ティーンはここまでよ」
聖那さんなりの独特な言い回しで閉店を告げられ、それぞれメロンソーダとレモンスカッシュを飲み干してお会計を済ませた。その間にお店の人が照明をグッと落とし、グラマラスなお姉さんがどこからともなく大量発生する。
「じゃあ、結果報告待ってるわ、会長くん。京汰くんもまた来てね♡」
「了解です聖那さんっ!」
会長はすっかり聖那さんと打ち解けたようで、彼女のピンク色の名刺をにこやかに受け取っていた。こいつもこれから男になるんだな。
ごちそうさまでーす、と俺達がドアを開けると。
「聖那ちゃーん! もう開いてる? 俺バイト休んで来ちゃった!」
「あれ! もーう何やってんのぉー? でも聖那嬉しい。今開いたとこだよ♡」
俺は新たな声の主を聞いて、開いた口が塞がらなかった。相手も俺を見据えると、文字通り固まった。
「は…………?」
「え、な、ななっ、なんでこんなとこにきょーちゃん?!」
「えーっ、京汰くん、私の常連さんと顔見知り?! 世界狭すぎない?!」
声の主は、鼻の下伸ばしまくってる、顎にホクロのない双子の片割れであった。
ややあってから、会長も「あ! タコパの時の双子!」とピンと来た様子。
まさか、カイさんのタイプまで知ることになるとは……。
「カイさん……」
このこと絶対リュウに言わないでね! きょーちゃん絶対だよ! 男の約束! と喚くカイさんの腕に、そんなことより早く入って〜♡ と聖那さんがしがみつく。何を見せられてんだよ俺は。
口内が乾燥するほどポカンとしていた俺達は、そのまま静かにドアを閉めたのだった……。
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