キラッキラの秋学期
#31 圧倒的違和感
・・・・・・・・・
旅行はあっという間に終わってしまい、俺は帰途についてしまった。
夏の“よじかんめ”メンツの旅行は総じて楽しかった。
……初日はね。
いや、2日目3日目ももちろんめっちゃ楽しかったんだけど、なーんかどことなく緊張感的なのが漂っていたというか何というか……。
特にカレンと会長と玲香。きっと恐らく絶対確実に何かあったろ。でも大学生だって、もう一端の大人。彼らは簡単に口を割りそうにない。喧嘩なのか? とも思ったが、喧嘩というほど険悪な空気ではなく、互いに言葉も交わしていた。ただ、積極的に絡む場面が皆無になっただけのこと。この旅行中で俺が把握していない時間といえば、初日の夜に飲んでから朝までの数時間……。だけどこの時間に何があったのか、ちょっと怖くて聞き出せない。下手に聞いたら空気をブチ壊しそうな気もしたんだ。
そして心なしか、華音も俺に対してちょっとぎこちない。まぁこれに関しては、俺と再会したせいで大学生デビューした俺に惚れかけて、「やだ私! 彼氏いるのに何考えてるのっ! い、いくら京汰くんが垢抜けたからって……///」って思ってるせいでぎこちなくなってる、なーんていうポジティブ全開の解釈をしたいとこだけど、勘が違うと訴えてる。まぁそうよね。
『すごいよ、素晴らしい妄想力だ、京汰くん』
時に俺の思考まで読み取る、エスパー式神は今日も俺のお世話に徹している。
……こいつ一旦ぶっ飛ばしていいかな?
『京汰くんが僕をぶっ飛ばしたら、僕は怪我して京汰くんのためのお料理とお掃除とお洗濯ができなくなってしまいます。さぁ、全てを親と式神任せにしてきた京汰くん。どうする? 生きていける? 餓死しない? この家ゴミ屋敷にならない?』
こいつマジでぶっ飛ばす。
俺は意地悪そうな顔をしている式神のほっぺたをむんずと掴んで、上下左右あらゆる方向に動かした。
『ふぎゃっ!』
これ以上調子乗ったら、文字通り消すからな覚えとけよこの野郎。
そして、夏休みが終わって1週間ほど経った日のこと。
秋学期初の“よじかんめ”メンツによる、学食での定期会合が開かれた。
いつも大人しい華音だけど、今日の彼女は基礎教養の時から際立って大人しい。あ、授業中大人しいのは当たり前で、授業前の雑談の時間から大人しい、ってことですよ。
学食ではそれぞれが好きなご飯を買って、俺たち基礎教養のメンツは巧とカレンを待つ。しばらくして2人がやってきた。
さぁ、会合の始まりだ。このメンツとは夏休みも会っていたのに、学食で顔を合わせるとまた新鮮な感じがして不思議だ。
……と、内心ワクワクしていたのは俺だけのようで。
「実は……一応、みんなに言っておこうかと思って」
みんなが席についた途端、華音が重そうな口を開く。どうしたんだろう。もしかして、また転校とか言わないよね? さすがに大学で転校はあんま聞いたことないし……。
「遠距離恋愛、やめたの」
「え?!」
思わず食い気味にリアクションしちゃったよ。
エンキョリレンアイ、ヤメタノ
これ何かエコーかかって聞こえる。……デジャブ?
<え??!!>
良かった、俺以外にも驚いてるバケモンが約1名いたわ。
「や、やめたってどういう」
「京汰座れ発言は座って挙手だバカ」
会長……ここ生徒会じゃないんですが……という言葉が出かけたけど飲み込む。思わず立ち上がってたの気づかなかった。悠馬も“気”があっち行ったりこっち行ったりウロウロしている。俺らこんなとこが似ててどーすんだ。華音も色々察しているみたいで、目がきょろんきょろんと動いている。
「別れたの、陸と」
<そうか両生類と別れたんか>
「両生類?!」
「え、両生類ってなに京汰」
「発言は座って挙手!」
あ、まっずい。悠馬のリアクションが聞こえてつい反応しちゃった。大貴が「なになに華音と何の話したん」と俺に聞くけれど、俺も両生類って何か知らない。いや、知ってるんだけど、この文脈での使い方は知らない。てか悠馬はなぜ両生類と言ったのか。
華音は悠馬がいる方をチラリと見た後、「あ、あの、両生類っていうのは……」と話し始めた。そこで華音の彼氏……ではなく元カレ・水上陸が両生類と呼ばれていた経緯を初めて知る。はぁ、名字が水だし水泳部なのに名前は陸で、両生類。なかなか面白いじゃない……じゃなくって、なんで悠馬は知ってるんだ? いつ話したんだ? きっと俺のいない時だろう。それはいつだ。
とりあえずその場は、「華音も大変だったんだなぁ」とか、「遠恋は難しいよなぁ」とか、「華音も悪気あって旅行の動画あげたわけじゃないのにねぇ」とか色々言って彼女を慰め、お開きになった。
そして華音のこともそうだけど、やっぱり会長と玲香とカレンの様子が変だ。夏休みが明けても変。玲香の隣の席も空いていたのにカレンはわざわざ俺の隣に座り、会長は玲香と目を合わせない。うーんやっぱり、喧嘩したわけではないと思うんだよね。
でもじゃあなんなんだ……??
ただ、会長達の一件の前に、俺にはやるべきことがある。
兎にも角にも、まずは悠馬をどうにかしなければ。
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