#32 藤井刑事は式神を落とす
ってなわけで。
「おい、さっさと吐け」
『じ、自白の強要だよそれは! てか取り調べるなら、か、カツ丼! カツ丼持って来てよ!』
「……お前、これがお遊びじゃないのは分かってるよなぁ?!」
帰宅して、俺の家のリビングは取調室と化した。もちろん容疑は、悠馬がいつどこでなぜ華音から両生類という俺の知らない話題を聞き出していたか、ということについてだ。俺が刑事気取りでドスの効いた声を出してみたら、思ったより簡単に目の前のバケモンは口を開く。
『あ、あのっ、そのっ、旅行した時に……みんなが巧のお祝いで飲みすぎて寝ちゃってた時にですね……』
式神も問い詰めれば吐く。
……こんなことわざ、ありそうだな。犬も歩けばなんちゃらほい、みたい。
俺は状況を詳しく聞き出した。
……ほうほう、悠馬くん、華音ちゃんの恋愛に関するお悩みを聞いてあげて、泣いて抱きつく華音ちゃんを抱きしめてあげたんですね。
……は?
え、抱きついたって、はぁ??!!
抱きしめたって、ハァ??!!
「お前何してんの?! 俺が大貴に乗っかられて爆睡してた間に何してんの?! お前自分のやったこと分かってる?!」
『いやだって、僕これからも華音ちゃんのこと好きでいるよ、ってちゃんと京汰に話して許可もらってるし、京汰だって皆川先輩倒した後とか抱きしめてたじゃん、華音ちゃんのこと』
「あれは! 事故! 悠馬のは! 故意!」
『慰めただけだって。華音ちゃんが僕の手首引っ張ってきたんだし。それに、あの日は色々カオスだったんだから』
「カオス?」
悠馬は、誰にも言わない方がいいよってか、京汰が言ったら「起きてたの?!」って怪しまれちゃうよ、と長めの前置きをしてから言った。いいからはよ聞かせろ。
『うーん、でもやっぱりこれは……』
「いいからさっさと吐け。内容の云々は俺が判断する」
『は、はい……これ、本当に内密の……』
「いいから早く!」
『ヒィっ』
式神も問い詰めれば吐く。
この言葉、そろそろ広辞苑あたりに載せておくべきだろう。
『あのね……玲香が会長に告白してて、それをカレンが見てたんだ』
「え??!!……あ、だからなんかあの3人、妙によそよそしかったのか!!」
悠馬の口から放たれたのは、文○砲並みのスクープであった。
『そういうことよ。どうも、会長は玲香に返事してないみたいだけどね。会長に玲香が抱きついているのを見て、カレンが思わず『え、玲香……抱きついてるって、会長のこと好きなの?』って聞いたのが聞こえちゃってさ。華音ちゃんも聞こえたみたいだけど、聞かなかったフリしてる』
「……お前、芸能リポーターなれんじゃねえの」
そういう俺の頭には青筋が。もちろん、今のセリフは悠馬への皮肉である。玲香達のこともすごくびっくりしているのだが、悠馬と華音の案件ばかりが頭を支配してそれどころじゃないのよ。血管からピキッ、と音がしそうなのを何とか堪えている。
いや分かってるんだよ? 彼女は俺のもんじゃないんだから、別に悠馬に悩みを話したって、助けを求めたって問題ない。まぁきっと華音の彼氏……
でもなぁぁぁ、悠馬もそれを拒まないってとことか、華音も悩みを俺に話さないってとこがめっちゃモヤモヤする。華音には怒ってるわけじゃないけど……あぁぁぁモヤモヤするぅー!!
『京汰ぁぁ顔が怖いよ』
「たりめーだろバカ」
『とにかく、なんか最近の“よじかんめ”メンツ、不協和音がヤバいんだよ。すっごく仲良い空気が良かったのに、これからどうなっちゃうんだろうって』
「半分くらいお前のせいだけどな?! お前が華音とそんな密着してるのが何より不協和音なんだけどな?!」
『ぼ、僕は正規メンバーでは』
「だから非正規メンバーが不協和音起こしてるっていう、それこそ結構カオスな事態になってるのあんた自覚してる?!」
『ひいい』
あぁ、俺なんであの時ブッ潰れて大貴と一緒にグースカ寝てたんだか。
華音、きっと悠馬の方が今好きだよなぁ。俺が恋愛対象に入ってるかどうかという根本的な問題はさて置き、もし俺と悠馬が選択肢にあるのなら、今は確実に悠馬が優勢だろう。
だって俺よりイケメンなんだぜ? 身長は俺の方が高いけど、パッチリとした二重に存在感のある眉、少々ぽってりとした唇にくっきりとした喉仏を携え、黄金比に近いEラインまで持っている式神は、無駄に外見スペックが高い。横顔は大人っぽいのに、正面から見ると童顔で、それこそ女子の心をくすぐる甘いマスク、ってやつだ。親父ほんとこういうとこ性格悪いよな。なんで俺よりハイスペックな奴作っちゃうの?
一方、俺には華音に存在を認識してもらえるっていうアドバンテージすらなくなっちゃったし、どうしたらいいんだよ。でも今あからさまに彼女にアプローチするのは、元カレと別れたばかり、かつ悠馬に頼ったばかりの今のタイミング的に違う。俺は「悠馬の代わりに俺を見て」欲しいわけじゃない。「俺を俺として見て」欲しいのだ。その道のりは、極めて遠そうだけど……。
そして多分、華音のこと以上に玲香と会長の一件がケリつかないと、この不協和音は終わらなさそうだし……。
あぁぁぁっっ!!
『と、とりあえず、華音ちゃんとの一件は事故なのでご機嫌直して下さい京汰さん。すみませんでした』
悠馬が伏し目がちに俺に詫びを入れて来た。
「じゃあ今からさっさと唐揚げ作れ世話係よ」
『かしこまりました京汰さん』
こうして、取調室は一応ただのリビングに戻る。
だがモヤモヤが最高潮に達した時、俺のスマホがパッと光った。
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