#21 肩書きってすげぇ【工藤瑠衣】
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こっからは“会長”と呼ばれている俺、つまり工藤瑠衣の話をしよう。
あ、ちなみに、瑠衣と呼んでもらうのはもう諦めた。今や巧もカレンも玲香も会長呼びだ。俺自分の名前結構好きだから、そっちで呼んでくれてもいいのになぁ。
でもまぁ、会長ってのも案外気に入っている。そんな自分にちょっと驚いてもいるんだけどね。
さて、俺は今、とある危機を迎えている。
それは、サークル難民危機だ。
自分の好きなことが分からないという、絶望的状況。
高校の部活はママの意向で模擬国連部とかいう興味の欠片もない所に入れられたから、部活と同じこと続けるってのはナシ。習い事に関しても、塾とバイオリンと英会話をママに強制されて、嫌々通っていたから音楽系とか国際交流系もナシ。運動に関しては……もう、苦手の域を超えてるから論外。きっと神様は俺を作る時、運動神経と反射神経を入れ忘れている。そりゃまぁ、何億人も作ってたら多少は失敗作もあるだろう。優しいから大目に見ておくが、普通だったら俺はリコール対象だ。死んであの世に行ったら、必ず文句を言ってやろうと考えている。
とまぁ、そんな状態の中、行き当たりばったりで様々な新歓コンパに参加するけれど、入会金払ってまで入りたい理由も広げたい人脈もなく。この大学を選んでから「東大じゃないなんて」と不満しか言わないママと会う時間を少なくしたくて、ただ夕飯食いにコンパ行ってるだけ。未だに、サークルの必要性を見出せていないのは、“よじかんめ”メンツが想像以上に濃厚な奴らで、俺はこの狭いコミュニティだけで非常に満足してしまったからなのかもしれない。
今日もいつも通り、もはや何のサークルかもロクに確かめず、ただ先輩らしき人に声をかけられたのがきっかけでサークルのコンパに行って、二次会も無料だというから、そこで先輩が一向に手をつけない唐揚げやポテトを食い漁って。まだ新歓なので「飲めよ」とも言われず、シラフの俺は、酒のせいで獣に成り下がった先輩達を冷めた目で見つめていた。
どうせここも最初で最後だな、と見切りをつけて、二次会終了の合図と同時にひっそり店を出た。本当は駅前の広場で締めの挨拶なるものがあるようだが、店から全員が出てくるのも時間がかかるし、これ以上「是非入会してね!」なんて酔ったテンションで言われたって、面倒なだけだ。
1人で駅まで歩いていると、不意に「もぉ〜だからぁ〜むりぃ〜うぅ〜」という声が聞こえてきた。
「ん?」
声の方を見ると……
獣になりかけた、ケンタウロスみたいな状態の玲香が。
……待って玲香?!
両隣の男の先輩の肩を借りながら、よろよろと歩く玲香。さっきの声の主は、紛れもなく彼女である。鞄を握る手は頼りなく、ワンピースの胸元は少々乱れていた。無自覚に彼女の禁断領域を見てしまい、思わず目を伏せるが、声だけは耳がはっきりと拾っていた。
「ほーら玲香ちゃん! お家帰れないよね、カラオケか俺の家行かない?」
「とりあえず水飲んで、落ち着いたらまた飲み直そう! 可愛いからほっとけないよ」
やはり、飲ませたのはこいつらか。
曽根玲香は、新学期が始まる日にちを忘れちゃう奴だ。きっとあの男達にいいようにおだてられるとかして、明日も授業だってことを忘れて飲んじゃったんだろうなぁ。まぁでもそもそも、未成年の新入生女子、いわゆる“
てか「俺の家行かない?」って……。もうそれほぼ確実に危険な香りしかしないだろ。元生徒会長の俺の勘が、赤灯を回し始める。さすがにイツメンのことは、守らねえとな。
気づけば俺は、声を上げていた。
「あ、あのっ」
玲香の両隣にいた男達は、急に表情が険しくなった。
「あ? お前誰?」
俺は玲香の友達です! 新入生潰すなんて最低だ! どこのサークルなんだ! 言ってみろ!
……なーんて威勢の良い言葉が淀みなく出てくるくらいなら、俺はもっと前からママに反抗できていたはずだ。
「え、えっと……」
「何お前、見た目チャラめな癖にビビリだったりする? だっさぁっ!」
確かに外見だけはパリピに近い俺。でも中身はグニャグニャのチキンだ。まずそうなチキン。
自分の情けなさに唇を噛んでいたら、玲香の目が俺を捉えた。
「あ……あれ……? かいちょう……?」
フワフワとした声で俺のあだ名を呼んだ玲香を見て、男達は固まった。
「え……会長?」
「ど、どどっ、どっかの組織のトップってことだろ」
「え?! あ、あのっ、今回は見逃して下さい! すんませんっ!」
「ほら早く行こうぜっ」
威勢の良かった男達のあまりの豹変ぶりを見て、逆に俺が驚きで固まる珍展開。
え、俺ただの元生徒会長なんだが。マジでただのどこにでもある、ふっつーの高校の元生徒会長なんだが。
さっきまで姫のように扱われていた玲香は、急に道端にほっぽり出された。俺は慌てて玲香を抱きとめる。
まさか、会長というあだ名がこんな効果を発揮するなんて。ガン飛ばしてた奴らが突然敬語になるんだから、俺は笑いそうになってしまった。
ママに無理矢理やらされた仕事だったけれど、元生徒会長で良かったのかもしれない。
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