#19 きょーちゃんはツッコミ役
学食の様子を見ていただいただけでお分かりのように、俺の新たなキャンパスライフは、彼女いないけど充実しまくっていた。
もはや困った。充実しすぎなくらいに充実している。これにサークルなんて入ってたら、キャパオーバーだったかもしれない。
総勢8名の学食メンツはあれで固定化したようで(あれ以上増えたらカオス極まって管理人必要になりそう)、基礎教養の4回目の授業が行われる頃にはLINEグループができていた。グループ名は“よじかんめ”。大学の時間割でいう4時間目がフリーの人間の集まりだから、“よじかんめ”。平仮名ってとこが程よくアホ感を醸し出していて、俺的に好みである。玲香も「それめっちゃ最高じゃん」と大絶賛。この名前を考えた会長は、なかなかセンスある。ますます会長が好きになるぜ。
そうそう、これを機に、すっごく久しぶりに華音のSNSアカウントをゲット出来たんだよね。もう絶対に、スマホを水ポチャさせねーぞって誓いました。
魔法学校としか思えなかったバイトは、週3回入るようになった。週15時間バイトしていれば、さすがにオーダー取る時の専門用語が呪文ではなく、ちゃんと日本語として耳に入ってくるようになった。一卵性双生児の教育係、カイさんリュウさん兄弟は相変わらずの漫才を繰り広げ、たまーに店主に怒られている。彼ら曰く、漫才ではなく喧嘩だというけれど、どう見ても息ぴったりの漫才だ。台本あるんじゃないかと疑うレベル。ぴったりすぎて正直、ちょっと羨ましい。俺と悠馬じゃ、ここまでのシンクロ率は出せないもんなぁ。
今日も店主が謎の力を発動して寝こけていた常連客をテーブルから引き剥がし、無事に営業を終えた。あれだけは俺にとって未だに魔法である。多分、店主は魔法使いだ。俺の隣には常に悠馬という式神がいるからこそ、俺は店主=魔法使い説を半ば本気で信じている。
片付けも任せられるようになった俺が皿洗いに徹していると、カイさんが声をかけてきた。一応説明を加えると、顎にホクロがないお兄ちゃんの方である。
「きょーちゃん、大学はどんな感じなの?」
2回目のシフトの時から、この漫才双子兄弟は申し合わせたように俺を“きょーちゃん”と呼ぶ。このあだ名は多分、小学1年生以来。久々すぎて、今頃きょーちゃんは小っ恥ずかしい。
「だから京汰でいいですよカイさん、恥ずかしいから」
「いいじゃん、きょーちゃんの方が可愛くて親しみ湧くし! なあリュウ」
「今回はオレもカイに賛成!」
おいおい、反論しないんかいっ。そこは「京汰がいいだろ」って喧嘩にならないんかいっ。
俺は諦めて、カイさんの問いかけに答える。
「大学……メンツは正直、濃いっすね」
「え、こい?……恋?! えーっ! だれだれ?!」
「誰って、知らないと思いますよ?」
「いいからいいから。言ってみないとそんなんわかんないでしょ、きょーちゃん」
「えーっ。……まぁ、6人いるんすけど」
華音と会長と大貴と巧と玲香とカレンのことな。一応、ここでは悠馬は除きます。
すると、カイさんリュウさんが顔を見合わせた。彼らは黙って目をパチクリさせている。
何この沈黙。
すると、カイさんが途端に素っ頓狂な声をあげる。
「ろ、ろろろ、6人?!」
「まぁ、ちょっと多めなんですけどね」
「ちょっとどころじゃないよ、きょーちゃんあんたすげぇな。どうやって出会ったん?」
「いや、普通に必修クラスとか、友達の友達とか……」
今度はリュウさんが「ぐえっ?!」と、異物を飲み込んだかのような素っ頓狂な声をあげた。口元に手を当て、顎のホクロが隠れている。
「きょーちゃん…………必修で手ぇ出したん??!! 早くない?!」
……ん? 手を出す? は?
「あのーすんませんリュウさん、何の話してます?」
「いやだから、きょーちゃんが大学入学早々恋して、6人の女の子に手を出したって話」
あーなるほど。俺の「濃い」を2人は「恋」と勘違いしたのね。同音異義語って難しいね。
……って。
「んなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっっっっっ!!」
「「ひぃぃぃぃぃっっっ??!!」」
<今華音ちゃん一筋だし、そもそも同時に6人手出せるほど器用じゃないもんね>
(悠馬、なんかちょっとディスってない??!!)
<京汰とカイさんリュウさんのすれ違い漫才、非常に面白いです>
(あんたの立場は何??!!)
1つ年上の双子兄弟に初めて全力で突っ込み、隣で隠形している式神にも同時並行で声を出さずに突っ込む。
新入りに思いっきり突っ込まれた2人はと言えば、やや萎縮した後、「いやぁびっくりしたよ、“濃い”ね! 濃厚な方ね! 安心したな、リュウ!」「うん、きょーちゃんが健全で良かったよ!」としきりに安心し合っている。あんたらは俺の親戚か。近所のおばちゃんか。どんな勘違いしてんのマジで。
彼らが年上に見えないのは、俺だけではない気がする。
こうして俺はバ先で、別に望んでいないのだが、ツッコミ役としての地位を確立することになった。バイトを始めてもうすぐ3ヶ月。卒業するまで俺はツッコミ役に徹することになるんだろうか。
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