#18 こってりねっとり超濃厚

「あ、あのさっ、なんで玲香ちゃんは先週お休みだったの?」


 コミュ力お化け(メス♀)にもきちんと“ちゃん”付けで尋ねる華音ちゃん。そういう所、本当に偉いと思うの。俺は心から尊敬してる。今俺が心の中で玲香のことをメスなんて呼んでいると知ったら、華音はどんな反応をしてしまうだろうか。「なんてひどい呼び方なの! 京汰くんのこと見損なった、もう嫌い!」なんて言われたらどうしよう(好き嫌いの次元に俺がいるかはこの際議題にはしない)。怖くて見られたもんじゃない。


 玲香でいいよ〜私も華音って呼ぶし! と言いながら、よくぞ聞いてくれましたみたいな顔をして、彼女はあっけらかんと答える。


「あー、あのね……実は、新学期が今日からだと思ってた」

「え?! じゃあ……先週の授業、全部休んだの?」と驚く華音。

「まぁそういうことになるよね。ここが現実世界ならそういうことになる」

「そ、そっかぁ……」とやや引く華音。


 と、ここでまた丁寧に「少なくとも異世界ではないわな」と突っ込む会長。感動の雰囲気を巧にぶっ壊されたことで落ち込んだ気分は、復調してきたようだ。


 揃って騒々しい新キャラを前にして、ただポカーンとしていた俺達だが、やっと言葉を喋れる程度まで復活してきた。この空気に慣れちまった、ってことでもあるが。

 まぁ初回くらい、ね? と玲香はにっこりするけれど、授業評価をするのは俺達ではない。にっこりすると、少々大人っぽい顔立ちがくしゃっとして、普通に可愛い部類に入る顔立ちだ。しかし媚びを売る相手をミスってる。それにしても、なんて面白い人材ばかりなんだい。


<なんかさ、背脂いっぱいの豚骨スープみたいなメンツだね>

(うわっ、悠馬じゃん。……あぁ、異常に濃い)

<あの巧って子の登場で、僕の涙が引っ込んじゃったよ。会長のエピソード素晴らしかったのに。もうっ>

(俺に怒ったってしゃあねぇだろ)


 それから少しの間、悠馬と時折意思疎通をしつつ、新入りのコミュ力お化け2匹の話を聞いていると、「あれ、華音だ!」と女子っぽい声が。


 嘘だろ。また闖入者ちんにゅうしゃ?!


「カレン! もしかして、今空きコマなの?」

「そうなの〜! なんかこの集まり楽しそうだね、サークル?」

「ううん、基本的には基礎教養の集まりだよ」


 そうなんだ、座ってもいい? いいよ! じゃあ失礼しまーす! と、新たなメスのコミュ力お化けが俺の隣に腰掛けた。なんてこった。普通さ、自分と関係なさそうなコミュニティの席だったら、自分から座るって行動には出なくない? 積極的すぎん? もしかして彼女もコミュ力お化け……?

 ……てか、なかなかエキゾチックな美人ではないか。前髪のないおでこには、くっきりと力強い眉。そしてこれまたくっきりとした二重に、パキッと赤い唇。めっちゃはっきりした顔立ち。メイク濃くないのに、舞台化粧みたいなオーラを醸し出している。周辺のテーブルについていた他の学生も、一瞬振り返るような美人だ。


「あ、諸星もろほしカレンちゃん。スペ語で同じクラスなんだ」


 俺の「マジで誰やこいつ」感をいち早く察知したのか、華音が俺に説明してくれる。スペ語とはスペイン語選択の略称だ。英語以外に1つ外国語を必修で取らないといけない俺達は、複数の選択肢から各自希望したものを履修することになっている。華音とカレンはスペイン語だということだ。ちなみに俺はチャイ語こと中国語。漢字なら覚えられそうと思ってたんだけど、発音がムズいことを考慮してなかった。早速詰みそうだよ。


「へぇ、カレンちゃんっていうんだ! あ、俺は永山大貴ね。てかめっちゃ美人だね、もしかしてハーフ? なの?」


 どう見ても日本人離れした顔立ちのカレンは、「ありがと〜パパがスペイン人なの」とさらりと言った。「やっぱり!」と大貴は1人納得しているが、初対面で直接「美人だね」なんてナンパ紛いの言葉をぶち込めるメンタルはやはり、コミュ力お化けとしか言いようがない。

 えーと、諸星カレンはパパがスペイン人で、必修の外国語はスペイン語選択。……何だそれ。無双じゃねえか。

 あ、家でも日本語だからスペイン語全然私話せないんだよ〜純ジャパだし〜なんて隣の美人は早速予防線を張るけど、俺は信じないぞ。てか基本の文法はもう満点確実だろ。



 そうこうして、カレンも瞬く間にこの場の主役級キャストとなった。なんなんだこのお化け達は。コミュ力お化けのオスが陽キャな大貴と、浪人マウント取る巧。メスが初回授業全欠席の玲香と、スペインハーフのカレン。こいつら出会って5分足らずで、前から仲間です的な空気醸し出してる……。

 そこに高校の元マドンナである華音と、過去の闇を乗り越えた会長こと瑠衣と、隠れ陰陽師の俺と、リアルお化けの悠馬。


 総勢8名(人外1名含む)。


 …………濃すぎる。濃厚すぎる。

 チーズ何種類も使ったカルボナーラ並みに濃い。規定の半分しかお湯入れずに作ったカップスープ並みに濃い。


<水欲しいくらいだね。このメンツはなかなかヤバい>


 さすがは俺の同志。よく分かってる。



 まぁ、バケモンのお前が最もヤバいんだけどな。

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