#17 コミュ力お化けの繁殖地
しばしの間、俺達は瑠衣のドキュメンタリーに感動しっぱなしだった。悠馬に至ってはハンカチ必須みたいな雰囲気出してるけど、この場で俺はどうしてやることもできないので放置しておく。
すると。
「おお大貴じゃーん!」と、場にそぐわぬ明るい声が。今しんみりしてるシーンなんだってば。誰じゃ一体。
「巧じゃん! どしたん」
「5限あるんだけど、今空きコマで暇で、何となーく腹減って、学食を歩いていたら……大貴がいたからさ」
てか女子1人ってどんなメンツだーい、と言いながら、ちゃっかりと大貴の隣に腰掛ける男子。だから、誰やこいつは。
今までこの場を覆い尽くしていた感動を、この男の登場によって数秒で持ってかれた会長の顔がすごいことになっている。……ドンマイ。
と、ここで俺達の「誰やこいつ」感をやっと悟ったようで、大貴が口を開く。
「あ、俺と同じ文化祭実行委員会の同期の……「峰さんじゃん!」」
「あ?」と、出鼻を挫かれた大貴。
「ん?」と、俺。
「え?……あっ」と、華音。
ちなみにすごい顔をキープしたままの会長は
待って、今なんか人増えてなかった?
「え、てかこのメンツ、もしかして、ってかもしかしなくても、私と同じ基礎教養のクラスの顔ぶれだ……ねぇねぇ私も混ぜて!……てか女子1人ってどんなメンツぅ?!」
誰か分からない人①(♂)と同じセリフを言いながら、ちゃっかりと華音の隣に腰掛ける、誰か分からない人②(♀)。あ、ってかこの人今同じクラスって言ってたな。……でも名前が出てこない。こんだけキャピキャピしてる女子が自己紹介してたら、きっと記憶に残ってるはずなんだけどな。
俺達の「ますます誰やこいつ」感を悟ったようで、誰か分からない人②(♀)が口を開く。さすがのコミュニケーションお化けこと大貴も、今は開いた口が塞がらないようだ。
「あ、私、
「そ、そうだったね! 玲香ちゃん、よろしくね」
「うんっ♡」
「お、俺は永山大貴っていうんだけど、なんで、その……曽根さんは、巧のこと知ってるん?」
「え、全然玲香で良いから。てか、え、峰さんのことタメで呼んでるの? じゃあ私もそう呼ぼうかな」
「ちょ、人の話聞いてる?! なんで知ってるのって聞いたんだけど?!」
大貴をも困惑させるニューヒロインのご登場。無敵かよ。そもそも新入生で初回授業休むってとこからして、無敵臭がプンプンしてる。
「もー待ってよ、答えるってば! 峰さんとは予備校一緒だったの。自習室でよく会うから割と話す間柄になって。同じ学部なのは知ってたけど、入学して初めて会ったぁ〜!」
玲香の紹介を受けて、峰さんと呼ばれた誰か分からない人①(♂)は、やっと素性を明かした。
「
自己紹介して峰さんの元に集中したみんなの目線が、ちょっと強さを増す。なるほど、だから“さん”付けだったのね。峰さんもその視線をすぐにキャッチしたようだ。
「あ、俺浪人生コース出身なの! 一浪だけどね! もしかして、みんな現役?」
明るくハキハキと、大きな声で浪人を早速カミングアウトした峰さん以外の全員がこくりと頷く。大貴は「え、年上だったの?」と1人驚いていた。「全然年齢とか、大学入ったら関係ねぇから。今まで通りタメでな!……あ、玲香以外は巧で全然大丈夫っすよ」と峰さん……じゃなくて、巧。
「ちょ、なんで私はダメなんですか!」
「だって、玲香に巧とか呼ばれるの、すっげぇ変な感じすんじゃん」
「しないから! ねっ、巧」
「サラッと呼ぶなぁ〜!……うわ、ほら、鳥肌立ったよ、見て見て」
「酷すぎませんか?!」
なんか、巧と玲香は2人の世界に入っちゃってるし。最初からいた俺達の方が取り残されてるって、マジでどういう状況なのよ。
俺達は新キャラに圧倒されすぎて、まともに声も出せない状況に陥っていた。しかし、そんな俺らをチラリと見ても、巧の明るさは変わらない。こいつ空気って概念を感じねえのか?
その時、巧の目が再び俺達をきちんと捉えた。
「ってかさ、現役合格とか、めっちゃ頭いいじゃんみんな!……でもまぁ俺の方が人生経験豊富だけど!」
よく意味の分からない浪人マウントを取ってきた巧は、「改めて、みんなよろしくな〜」とすんなり俺らの輪に入ってきた。
あゝ、コミュ力お化けが何匹もここで爆誕している。今の所、永山大貴と峰巧っていうオスが2匹と、曽根玲香っていうメスが1匹。
この学食はコミュ力お化けの繁殖地なのでしょうか。
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