#15 魔法学校に入学したようだ
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さて、ウキウキした気持ちでバ先に向かったは良いものの、初日からこんなに大変だとは思わなかった……。飲食が大変なのか、この特殊環境が大変なのか。
慣れないエプロンをつけて顔を出してみたら、教育係が2人共おんなじ顔してて(何とか区別つくようになったけど)、お客さん多くて、ジョッキいくつも一気になんて持てなくて、オーダー取る時の専門用語多すぎて「ここは魔法学校ですか」みたいになって、次から次へと料理が完成するから「ここは魔法学校ですか」みたいになって、どんな酔っ払いも店主の振る舞い1つでちゃんとお家帰るから「ここは魔法学校ですか」みたいになった。
結論、ここは魔法学校。
一見意味不明な用語で会話が成立し、光の速さで美味しいご飯が完成し、店主は謎の力で酔っ払いを閉店間際のテーブルから引き剥がす。うん、ただの魔法学校。店主の魔力が凄そうだ。
初回ってことで片付けは免除してくれたけど、まぁ疲れた。覚えることの多さと、お客さんの多さと、教育係のキャラに疲れたのかもしれない。慣れればそうでもなくなるのかな。
俺の疲労は、顔に出てしまっていたようだ。もしかして、お客さんがいた時間から出ちゃってたかなぁ……。
そんな風に考えていると、あの先輩方が俺の肩をポンと叩き、話しかけてくれた。
「オレ達ついてるから大丈夫だって!」
「困ったらいつでも呼んで」
「あ、ありがとうございます! えーと」
「オレが海星「オレが龍星な」」
「えーと……」
「はい! 今からオレが喋りますっ! オレが弟の龍星です!」
「何弟が先喋ってんだし! オレが兄の海星です!」
「2分差でゴチャゴチャ言うなし!」
「ほんっとに生意気だなリュウこの野郎っ!!」
「は、ははっ……」
家では俺がマシンガンの如く話す側なのに、ここじゃ形勢逆転だ。俺は乾いた笑いを返すことしかできない。
でも今日だけで、俺の1つ年上の双子兄弟はめっちゃいい人達だってことが分かりました。今日帰ったらまた顔の区別つかなくなりそうだけど。それに、しょーもない喧嘩はマジで多いけど。俺が5時間シフト入っただけで20回くらい聞いた気がするのは気のせいでしょうか。ギャンギャンギャンギャンと。でも数十秒後には普通に喋ってるんだよね。あの人達の世界線どうなってんのマジで。
そして、店主も良い人でした。きっと店主のお父さん、つまり鈴木さんの元彼も良い人なんだと思う。じゃあなぜ鈴木さんは別れたんだろうか。家族の反対にあったのかなぁ。どっか決定的に合わない所があったのかなぁ。
「ばあちゃんの元彼、ちょっと束縛と嫉妬が強かったらしいよ。なんでも、ばあちゃんのことが大好きすぎたみたいでさ。そんでエスカレートしてくる束縛と嫉妬に耐えかねて、ばあちゃんから別れを切り出したらしい」
俺の思考を読み取るように、小さな声で教えてくれる。……えーと、今教えてくれたのは、顎にホクロがあるからリュウさんだ。弟の、リュウさん。「まぁ、今じゃこんな仲だから、もう気にすることないんだろうけどな!」と普通の音量でカイさんが言った。確かに元彼とこじれまくってたら、孫を働かせるなんてできないもんなぁ。何はともあれ、変にこじれることはなかったのだろう。
エプロンを外した俺と、片付けを終えた双子兄弟で談笑していると、店主が「おーい」と俺達を呼んだ。
「今日唐揚げが少し余ったんだ。誰か食うか?」
「あ、良ければ家で食べたいので下さい」
「おお、藤井くん食べ盛りだね。全部持っていきな」
「え、リュウさんカイさんの分は?」
「「オレらは夕飯あるから大丈夫だよ」」
双子兄弟は相変わらず、一言一句違わず完璧な台詞を言う。すげえなぁこのシンクロ率。
俺が双子という生態に改めて感激している間に、気前の良い店主は唐揚げをささっとタッパーに詰めてくれた。
「このタッパー、次のシフトの時返してくれても返さなくてもいいから」
「あ、返しますちゃんと」
店主や兄弟にバレないよう、俺は悠馬をチラリと視た。
(悠馬、食うだろ。お前も5時間以上いて疲れただろ)
<京汰くん! や、優しい……! 家でいただくわ♡>
(その口調はやめろ)
今後、まかないを食えない悠馬の分として、余り物をいただくのはアリかもな。
それと男だらけの環境ってのも、ある意味さっぱりしていて、割と良いかも。
当面は、これで華音遠恋事件の傷を癒すしかないわな……。
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