#14 間違い探しみたい【悠馬】
「わーいわーい! 悠馬、俺バイトデビューすっぞ!」
『受かったの?!』
「そんなびっくりするこたぁねぇだろ。京汰様はやればできるのさ」
『じゃあそのスキルを発揮して、ぜひうちの家事の方も……』
「それとこれとは別物です」
なんと京汰、鶴ならぬ鈴木さんの一声で、大した面接もなくバイトが決まったようで。
清々しいくらいのコネである。
京汰よ、今後もコネだけで通用するほど世界は甘くないからね。
京汰に飲食店が務まるのか……と1人不安を抱える僕をよそに、京汰は初出勤を目前にしてすんごく楽しそう。華音ちゃんの一件はどこへ行ったのやら。
そして今日、ついに初出勤日がやって来た。朝から「バイトデビューだぜっ!」とか、「今日わぁ〜バイトぉ〜ふふふ〜ん」などとはしゃぎまくっている京汰を見て、僕はますます不安になる。
京汰よ、バイトは遊びではないのだよ。勤労に対して対価を得る、立派なお仕事なのだよ。君には対価を得るほどの覚悟と責任があるのかね……?
(バイトぉバイトぉ楽しみぃ♪)
大貴と一緒に授業を受けた後、まるで
「へぇ〜、もうバイトデビューかぁ。いいなぁ京汰!」
「へへっ、いいだろぉ〜」
「頑張れよ」
「何じっと見つめてんだよもう。……おうよ!」
大貴にも羨ましがられて、随分とご機嫌な様子。僕の右側を歩く茶髪男の口元はニヤつき、足取りは軽く、スキップでも始めてしまいそうだ。
<あのさぁ、あんまり浮かれてても良くないよ京汰>
(お前はほんとにお節介だな)
<世話係としての任務を全うしてるだけだよ>
(お節介も世話のうち、ってか)
自宅の最寄り駅の商店街にあるそのお店は、居酒屋とご飯屋の中間みたいなお店だった。定食もつまみもある、オールマイティ対応。
「こんにちは、今日からお願いします」
「おお、藤井くん。来たね。ささ、まずは荷物置いて、このエプロン付けて」
明るい店主に迎えられ(僕は迎えられてないけど)、京汰は早速店の裏に引っ込んでいく。
店主は鈴木さんの元彼の息子らしい。元彼の息子の店で孫が働く……何だろう、この妙にザワつく気持ちは。きっと式神だけじゃなくて、人間の皆さんもザワつくと思うんです。孫もザワつかなかったんだろうか。
まぁ、平和にやってる、ということでいいんでしょうか……。
黒いエプロンを付けて出てきた京汰は、なぜか男前に見えた。できる男に見えてる。これはエプロンマジックなのか? ほらあの、某コーヒーチェーン店で限られた人しか付けられない黒のエプロンをつけてるような。それとも、僕なりの式神フィルターなのか。授業参観や運動会で我が子を見る時と同じフィルターかかってんのかな。
外見だけはなかなか男前に見える京汰だが、その面持ちはさすがに緊張しているようだ。いつもより明らかに瞬きの回数が増えている。
「あ! 新入りの! ばあちゃんから聞いたよ!」
「エプロン、サマになってんじゃん」
京汰を歓迎し、オレ達が面倒見るね! と言った、京汰と同い年くらいの2人の男の子が、それぞれ京汰に声をかけて来た。
「え、えーと……」
「あ、オレは髙橋
「……えーと…………」
京汰が戸惑ったのも無理はない。
どっちがどっち?! 見事な一卵性の双子くん。僕も見分けがつかないよ!
「おいリュウ、そんな食い気味に言ったら混乱するだろ」
「なんでカイが先に言うのさ」
「オレが一応兄ちゃんだろぉ!」
「兄ちゃんって、たったの2分差じゃん!」
「2分でもリュウが弟なの」
「なんで120秒で人生決まるの?! カイずるくない?!」
その後もギャンギャンと1分くらい、しょーもない言い合いが続いたのだが、まぁそれは以下略、とでもしておこう。
しばし静かに聞いていた京汰だが、おそるおそると言った感じで会話に割り込む。
「えーと、お取り込み中アレなのですが……」
「「ん、どした?」」
つい今まで言い合いしていた2人が、揃って京汰の方を見る。反応のシンクロがすごい。シンクロするから混乱するのよ。
「お、お2人の、見分け方って……」
「カイは顎にホクロが「リュウは顎にホクロがある」」
「どっちにホクロ?!」
「リュウは顎にホクロが「カイは顎にホクロがない」」
「あの、どっちですか?!」
噛み合いすぎている双子兄弟は、また揉め出した。
「あぁだからもう被せんなよリュウ!」
「最初に被せたのカイだから!」
「だって、リュウはたまに説明クソ長いから!」
「カイもそうだから!」
夫婦喧嘩と兄弟喧嘩は犬も食わぬ。ここは傍観するのが吉だ。京汰もそう悟ったみたいで、もう突っ込むのを完全にやめて観客と化している。
まぁとりあえず、この2人のわちゃわちゃ双子兄弟こそが、鈴木さんの孫ということで間違いなさそうだ。まとめると、顎にホクロのない兄が高橋海星、顎にホクロのある弟が高橋龍星、ということかな。
彼らのおばあちゃんにあたる鈴木さんは、果たして彼らの区別がついているんだろうか。ぜひ聞きたいよなぁ〜そこんとこ、と僕は思った。
すると僕の気配を察し、京汰が僕に語りかけた。
(ねえ悠馬)
<ん?>
(このやりとりに既視感を抱かざるを得ないんだが)
<やっぱり? 激しく同意するよ>
そう。このカイ・リュウ兄弟は、僕達の家でのてんやわんやを見事に再現している……。
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