#13 今更発見がいっぱい【悠馬】
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「もう入学早々、天国から地獄に突き落とされた気分だわ……何このジェットコースターな1日は……」
セリフこそ
でも今日は、京汰の好物を作ると自ら言ってしまったのだから仕方ない。僕は悲嘆に暮れる京汰をチラリと見て、声をかけた。
『奇跡的な再会できたと思った矢先に、遠恋の彼氏いるの分かって、僕が視えることまで分かっちゃったんだもんなぁ』
「そうなの。京汰くん可哀想でしょ……ああもうどうやって生きていけば。俺はあの必修の授業にどんなモチベで行けば」
『京汰、そういう時は初心に返ろう。なんでこの大学に入ったんだっけ?』
「えー…………うーん……学歴が欲しかった、から、かな? あと人生楽しみたかったから?」
この人、AO入試だったら即落ちてただろうな。
僕は箸で掴んでいた春巻きを油にドボンしそうになった。
ダメだこりゃ。お話にならない。就活が思いやられるよ。
しかし。しかし、である。
今『お話にならんよ』なんて言葉を浴びせて、京汰くんを泣かせるほど、僕はひどい式神ではない。これ以上気分落ち込まれたら、こっちも色々と大変だからね。だから一応、建前だけでも、彼を思いやる。
知らなかったでしょ。式神だって、結構頭使ってるんだよ?
『と、とりあえず、再会できたんだから良かったじゃん! もし辛いなら、気を紛らわせるしかないよ! ね!』
「え、どうやって? ねえ悠馬、どうやって?」
え? 何か妙に食いついてきてない?
「ねえ悠馬教えてよ、どうやったら気を紛らわせられるの? 俺は一体どうすればいい? ねえ教えて! 教えて教えてっ!」
『……え』
思わず振り向いたら、『え』とか『ぎょっ』としか言えないような光景が広がっていた。
ぎょっ。涙目で春巻き食べる人初めて見た。京汰って空腹極まると千鳥足になって、落ち込むと涙目で春巻き食べるのね。そこそこの付き合いになるけど、今日は新発見がたくさんだ。
春巻きとご飯なくなっちゃったぁ〜おかわりぃ〜と力なく言う京汰。ダメージは相当なようで、明らかに幼児退行している。僕は第2弾の春巻きを大皿に盛り、京汰の茶碗を受け取りながら一生懸命考える。気を紛らわせてくれるもの……何だろう。口から出任せに言ったもんだから、すぐにこれといったものが出てこなくて、少し焦る。
『えーと……あ! バイトは? 違う環境で良い息抜きになるかもよ』
「バイト…………うーん、バイト…………あ! バイトっ!!!」
『急に何っ?!』
ただの春巻き吸引機と化していた京汰は、突然人間に戻った。光の速さで切り替わったもんだからびっくりだ。
ってか、もうこれ以上春巻き食べないでね。僕にもちょうだいね。
「悠馬、いいこと言ってくれたよ! 俺忘れてた、鈴木さんに前お話もらってたんだよ!」
鈴木さんとは、僕達のお隣さんのこと。未亡人の優しいおばあさんは、おバカ人間……ぐっふん、もとい、京汰を本当の息子のように可愛がってくれる、超貴重な天然記念物的存在である。僕のことは視えないが、頻繁におかずや野菜のお裾分けをしてくださるので、僕も鈴木さんには陰ながら感謝してるんだ。
ちなみに僕、亡くなった鈴木さんの旦那さんとは仲良しなんだけどね。まぁそれは今話さなくてもいいや。
『お話って?』
「鈴木さんとこのお孫さんのバ先で今、人欲しいんだって。京汰くんどう? って言われてて、返事してなかったの忘れてた!」
そーじゃんバイト良いじゃん悠馬天才〜! と言って、何を思ったのか、京汰はそのまま玄関に向かい出て行った。
5秒後。
「鈴木さ〜ん俺ですぅ〜」
ねえ、インターホン鳴らして。そんなバカでかい声出さないで。
今19時なのね。さすがに辺りは暗くなってるのね。急に大声出したら不審者なのね。ダイニングにいる僕にまで聞こえるって相当だからね。
しかも“俺”だけで通用すると思ってるあたり、詐欺グループの人間と同じ思考回路だからね。捕まりたいのかなこの子。
「鈴木さぁ〜ん、俺ですぅ〜京汰ですぅ〜こんばんわぁ〜」
語尾伸ばすのやめて。
「あ、鈴木さん! こんばんは! お元気です?」
割とすぐに天然記念物の鈴木さんが家から出てきたらしく、何やら楽しそうな声が聞こえる。
京汰、「夜分に失礼します」くらいは言おうね。もしかして、それも僕が教育しないといけないかしら。
それにしても、急に“俺”だと大声で言われても、またそんな大声を聞いても誰も通報しない、この平和な街が僕は好きだ。
さて、今のうちに春巻き食べなきゃ。
失恋したばかりの若いハイエナが帰ってくる前にね。
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