#12 式神は必需品
結局、超早食いの瑠衣よりも先に食べ終えて彼を驚かせた俺は、同志を探した。あの死神……間違えました、式神のことね。
あれ、どこだ……もしかして大貴による「華音 遠恋」の爆弾発言聞いて、俺以上にセンチメンタルになってどっか消えちゃった?
挙動不審だと思われないようにさりげなくキョロキョロしていると、斜向かいに座っていた華音が顎を少しだけ動かした。俺が、? って顔をすると、華音はもう一度同じ動きをする。
華音が顎を向けた方向を見ると……なんと。隠形した悠馬の“気”が確かにそこにあるではないか。え、待って。本日何回目かの待って。
……華音、まだ悠馬のこと視えるの??!! てか隠形した状態で分かんの?! 前よりスキル上がってね?!
ちょっと待って。俺今日待ってって何回脳内で言ってるんだ。
彼氏いるってだけで思考フリーズしてるのに。
俺の中で再燃した恋心は、再会したその日のうちに玉砕し。
俺のアドバンテージと言えば華音に存在を分かってもらえること、のはずだったのに、まだイケメン式神悠馬のこと視えてるし。しかもその能力に磨きかかってるし。
俺完全圧倒的絶望的不利じゃん。遠距離でも続くって彼氏との愛の絆強固じゃん。
てかその彼氏って誰だ。どこの馬の骨なんだ。
「帰国後に1年間だけ通った高校のクラスメイトでね。私、帰国してから祖母の家に住んでたから、その地方の高校で。彼は水泳部だったんだけど、大学でも水泳続けるって言って地元の大学に進学したんだよね。でも私、大学はこっちに戻ってきたくて。だから遠距離になったばっかなんだ」
「そうなんだ〜。よく彼氏オッケーしてくれたね」
「まぁそこは、私もちょっと頑固になったというか……」
「でも彼女の進学先は共学なわけだから、彼氏としちゃあウカウカしてらんないよなぁ!」
なぁ元会長! と明るく同意を求める大貴。あんた俺の高校じゃないだろなんで元会長なんだよと、これまた丁寧にツッコむ瑠衣。瑠衣って結構良い名前してるのに、早速あだ名は元会長になりそうだ。
「まぁウカウカできんわな。……で、彼氏とはうまく行きそうなの?」
すっげぇ。さらりと核心突く質問するあたりはさすが元会長。
そして俺は心の中で、極めて卑屈なお願い事をする。なんて汚い人間なんだと、我が身に呆れながら。
うまく行きそうにないと言ってくれ。破局しそうだと言ってくれ。実はね、もう辛くて……なんて言って綺麗な涙の1つや2つくらい流しておくれ。
「うーん、まだ遠恋始めたばっかりだから何とも言えないな。うまく行きたいなとは思ってるけどね!」
……そりゃそうですよね。うまく行きたいですよね。愛しの彼ぴっぴですもんね。
「ていうか、ほんと京汰くん久しぶり。ちょっと雰囲気変わったね!」
おっ、おおぅ。ここで俺に話を振ってきますか華音さん。
まぁこんな美人と友達でいさせてもらえるだけ、ありがたいのだ。高1の時に2回も映画デートできたことが奇跡だったんだ。また振り出しに戻っただけなのだ。
ってか、あれ? 悠馬の“気”が消えたな。どこ行ったんだろ。
「だ、大学デビューってやつだよ、はは」
切り替えようとした心とは裏腹に、乾いた笑いしかできない俺。情けねえ。
「ねぇねぇ、京汰くんって、彼女いるの?」
ちょっとあなた、どこまでぶっ込んでくんの。俺はカツカレーの逆流を抑えるのに必死だった。今失恋したばっかですから!!
でもなんか、ただフリーって言うのは大貴も瑠衣もいる手前悔しくて、無駄な言葉を手前につけてしまう。カツカレーを無事に胃の方向に流し終えた後、息を整えてから言った。
「い、今はフリー」
「そ、そうなんだ!」
華音の直感なのか知らないが、元カノのことは聞いちゃダメだと思ったらしくて、一瞬会話が途切れる。そんな空気を敏感に察知したのか、瑠衣が「その遠恋の彼氏の写真とかないの?」と話を戻す。場の仕切りと対応の能力、やっぱ伊達に生徒会長やってなかったんだろうな。高校時代のこいつあんま知らんけど。てか華音さん、俺に恋愛のこと今聞くなんて、そりゃあ酷だぜ。高校時代、俺が君のこと好きなの知ってたでしょ??
<京汰、今晩は京汰の好きなやつ食べよう>
幾分落ち着いた声音が頭に響き、ハッと意識を向けた。
そこには、いつの間にか俺の隣に来て、ささやく悠馬。
(お前……しばらくしたら華音の近くにいなかったじゃんよぉ。どこにいたんだよぉ)
<華音ちゃんの熱愛発覚に衝撃を受けて、頭を冷やすために構内を散歩してたんだ。でも京汰の深い悲しみを察知して、戻ってきてあげたのよ>
(悠馬ぁぁぁ……好き)
<迷走しないで京汰>
あぁ、ありがてえ。側にいてくれることが、もうありがてえ。早く悠馬お手製のお料理食べたい。
<一緒に好きなの食べよ、ねっ>
(うん……!!)
そう。こういうセンチメンタルな時に持つべきものは、式神である。
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