#11 セリフにエフェクトかかった
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俺は空腹を意識した瞬間、急激に全身の力が抜け、会ったばかりの永山大貴に引きずられるようにして学食にたどり着いた。俺初対面の人間信用しすぎだな。と脳内は極めて冷静に働いているものの、身体が言うことを聞いてくれない。
きっと悠馬あたりには、「シラフで千鳥足になる奴初めて見た」とか思われてるんだろう。
「着いたぞ学食」
元生徒会長こと工藤瑠衣の言葉で俺は最後の力を振り絞り、学食のレーンに足を踏み入れた。大貴と華音は席取りをしておいてくれるらしい。悠馬もフワリと華音達について行ったようだ。
「で、藤井は何食べるの」
「京汰でいいよ」
「京汰は何食うの」
「ん〜、思ったより種類豊富で迷うな。元会長は?」
「肩書きで呼ぶな。てかご丁寧に元ってつけんな」
「おお、ツッコミはまずまずだね、瑠衣」
「人を試すな」
「うん、合格」
「試験を受けた覚えはないぞ」
「……やっぱ、頭の回転速いんだな。すげぇ」
「……良いから何食うんだっての」
「うーん……全部食いたい……」
生徒会長って、もっと堅物でツッコミとかしない生き物だと思ってた。人は見かけによらないんだな、と、アクセサリーだらけの瑠衣を見て改めて思う。
「京汰、俺味噌ラーメンにするよ」
ちゃんと申告するあたりはやっぱり真面目。
「うまそうだな。じゃあ俺はカツカレーにしようっと」
「全然違うじゃん! なぜ聞いた?!」
丁寧に1つずつ突っ込んでくれる所も、やっぱり真面目。
高校の時にクラスが同じだったら、もっと早くから仲良くなれてたかもしれないな。
結局、俺はカツカレーで、瑠衣は味噌ラーメンに味玉を追加。熱々の飯をトレーに載せて大貴達を探すと、華音が手を振った。お2人さんはもうかなり打ち解けた様子で、何か話し込んでいる。
「え〜マジかぁ! でもやっぱそうだよな、うん」
「ん、大貴どした?」
俺が席に着きながら尋ねると、大貴が衝撃の事実を口にした。
「華音、彼氏と遠恋なんだってよ」
「……へ?」
「だから、華音、彼氏と遠恋なんだってよ」
「ちょっ、京汰くん、危ない! トレーひっくり返っちゃうよ!!」
「と、とりあえず京汰を座らせよう。えーと永山、だっけ? ちょっと手伝ってくれ」
「大貴で良いって。……よいしょっと」
「ありがとう大貴。……京汰。まずは食え」
なぜでしょう。大貴のセリフがエコーかかって聞こえます。
——カノン、カレシトエンレンナンダッテヨ
彼氏。遠恋。
普通に聞いたことある単語なのに、主語が“華音”になった瞬間、文章の意味が取れなくなる。
てか待ってよ大貴。初対面で華音呼び?! 俺華音って呼ぶまでに出会ってから7ヶ月経ってたよ?!
とまぁ、それは置いといて。
華音に、彼氏。遠距離恋愛の、彼氏。
切れ長の目を丸くして「え〜マジかぁ!」と驚き、「でもやっぱそうだよな、うん」と納得する大貴の受け答えの意味はよく分かる。華音と彼氏なんて単語は紐づけたくないけど、彼氏いない方がびっくりって容姿と性格してるからな。
いやでも待って。待って待って。マジで待って。
「京汰、カレー冷めるぞ……ってか一番腹減ってたろ、腹減って死にかけて千鳥足なってたろ」
瑠衣を見ると、いつの間にか麺が半分になっている。あんたは食うの早すぎな。
慌ててカツを口に入れるけど、衝撃のあまりむせ返りそうになるので急いで水を飲む。今日俺慌てまくってんな。
瑠衣が呑気に「へえ、彼氏は今どこにいるの?」なんて聞いている間に俺はカツカレーをかきこんだ。せっかくの初学食なのに、味を堪能する暇もねぇ。それに、これ以上詳しく聞いたら、俺の胃は食べ物を受け付けてくれる気がしないよ。
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