#10 また恋敵、始めますか?【悠馬】

・・・・・・・・・

 コミュニケーションお化けの大貴にビビる傍ら、僕は彼女のことが気になって仕方がなかった。


 制服を着ていた時から十分、いや十二分に可愛かったけれど、肩につく程度にまで髪を切って、メイクもした彼女は新たな美しさを手に入れていた。


 はぁぁ。

 とっても可愛い。

 もう一度言おう。とっても可愛い。

 うーん、まだ足りない。とっても可愛い。

 (以下略)


 何年か前に心にしまい込んだ淡い感情は、その瞬間再び爆発しそうになった。でもいきなり爆発させるのはさすがにヤバいし、京汰に白い目で見られそうなので、頑張って押さえ込む。



 このタイミングで再会できたのは、本当に奇跡的なことだと思う。


 僕の本当のご主人で、京汰の父親である勝さんが解禁してくれたのだから、僕は今度こそ、正々堂々と彼女に恋をするつもりだ。いつかちゃんと、想いを伝えるんだ、この声で。京汰のことも応援しているけれど、僕も僕なりに真剣勝負するんだ。せっかくチャンスが与えられたんだから!


 同志である僕達が、再び恋敵に。

 ——そんなことがあっても、いいんじゃない? って、思うわけ。



 京汰は華音ちゃんを見た途端、頬がほんのりと紅潮していた。ほんと、いつになっても分かりやすいよね君は。まぁ単純な所が愛らしいと言えば、愛らしいけれども。


 そんな彼女の前ではイケメンな所を見せたいはずだろうに、彼は初っ端から醜態を晒す事態に陥っている。

 大貴に引きずられるようにして教室を出た京汰は、足元から崩れ落ちそうになっていた。ただ空腹なだけで千鳥足になれる人間を初めて見たよ。

 あの子お酒飲めるようになったら、さらにめんどくさそう……と冷静に考えていたら、そっと声をかけられた。


「ねぇ。ここら辺にいる気がするんだ」


 その瞳は、しっかりと僕の顔の方を捉えていて。

 僕の肩に優しく触れるように、彼女はわずかに手を伸ばす。

 マジか。


<…………っ?!>

「合ってる?」

<……あ、ってる……! 合ってるよ華音ちゃん!>


 良かった〜私の“才能”まだ衰えてなかったんだ〜、なんて無邪気に笑う彼女。外見こそ多少大人びたけれど、笑顔は何も変わらないまま。



 高校1年生の時、華音には僕が視える才能、つまり見鬼けんきの才があった。

 僕は普段、人間とトラブルなく生きられるように、外では隠形おんぎょうというていをとって、バケモンオーラを最小限にしている。つまり、存在の省エネモードというやつだ。戸籍も実態も本来ないモノが、はっきりこの世界に存在していたら、みんな怖がるでしょう? 例え僕が犬系イケメンだったとしても。

 普通の人なら、僕が隠形を解いてオーラを最大限強くしなければ、僕を捉えることができない。でも華音と京汰、及び京汰の父である勝さんは、僕が隠形をしていても僕を捉えることができるのだ。それが見鬼の才。


 しかし華音は、皆川先輩の一件以来、少しの間僕が視えなくなっていた。それでも奇跡的にその能力が復活したのだが、アメリカに行ってからその能力がどうなったのか、僕には分からなかった。


 せっかく彼女が帰国してきたのに、僕だけ彼女の目に映っていなかったらどうしよう、と、授業中からずっと不安だったのだ。

 だから視えると分かって、本当に嬉しかった。そして、ホッとした。


 そんな風に昔を思い出せば、途端に懐かしさが溢れ出す。


「悠馬くんにも再会できて嬉しい!」

<ぼ、僕も!>

「また京汰くんと一緒に通うんでしょ? 大学」

<うん、そのつもりだよ>

「じゃあ、これからも仲良くしてね!」


 僕のいる方を見てにっこりとした彼女は、僕に「学食楽しみだね」なんて話しかけながら歩みを進める。


 夢のような展開だった。隠形してても僕が視えて、話しかけてくれるなんて。


 こりゃあもう、タイミング見てアプローチかけるしかないでしょ。

 こりゃあもう、京汰が寝坊しても僕1人で大学通うしかないでしょ。


 胸の高鳴りを強く意識しながら、僕は彼女の後を追った。




 後を追いながら、わがままかもしれないと思いつつ、華音の先祖の姫に懸命に祈る。

 どうかこれからも、彼女に見鬼の才を与え続けて下さい、と。

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