#9 出会いと再会と

 俺と同じく、大貴も次の授業は空きコマなようで、“授業”が終わってからも何となく教室に残っていた。あれは果たして授業だったのか。オリエンテーションでもなかった気がする。謎や。


 すると「京汰くん!」という明るい声が。


「お、おお、かっ、華音」


 かのん、という音の響きが久々すぎて、声が上ずっちゃったよ。


「ふふっ。久しぶりだね。まさか同じ大学で同じクラスなんてびっくりしたよ」

「それは俺のセリフだって」

「そうだね、お互い様かぁ!……ただいま」

「おぅ、おかえり」


 大貴はこちらに近づいてきた華音と、俺に交互に視線をやる。


「え、なになに。もしかしてこの美女と知り合い?」

「京汰くんとは高1の時、クラスメイトだったの。それから私は親の都合でアメリカ行っちゃって、去年帰ってきて、今日驚きの再会、って感じ」

「お〜い! マジかよ京汰、こんな美女とクラスメイトだったんか、はよ言えよ」

「はよって言われてもな」


 もう京汰呼び。いや嬉しいけど。大貴とは仲良くなれそうな気がする。


「そ。……あ、大貴の高校は俺達の隣の区だったんだって」


 俺が華音に教えると、たちまち2人は目を見合わせた。


 え〜そうなんだ! だ、大貴くん? じゃあさりげなく会ったりしてたのかな?………いやいや、こんな美女と会ったら俺忘れねえからぁ〜! うっそもう、初対面で何言ってるのよ〜……照れてるのも可愛いよなぁ!


 なんていう、どことなくキャピキャピした会話を早速繰り広げている2人。大貴すげぇな。コミュニケーションお化けじゃん。……ってまぁ、リアルお化けが俺の隣にちょこんといるんだけどね。


 彼女はもう、視えないのかな。


(てか悠馬よ。お前大人しくねえか)

<ぼ、僕には大貴くんがコミュニケーションお化けにしか見えなくて怖いです>

(お前も俺と初対面の時、人のパン勝手に食ってなかなか衝撃的だったぞ)

<ご主人の息子には、そりゃ建前でも明るく振る舞わないと、と必死で……>

(建前だったのな)

<まぁ建前なんて必要なかったけれど>

(それは激しく同意する)


 お化けにお化け扱いされるだいきは正真正銘のバケモン。



 と、そこに「何俺だけ省いて盛り上がってんの」という被害妄想強めの奴が入ってきた。いち早く悠馬が気づく。


<あ、元生徒会長だ>

「あ……」

「ん? えーと……京汰くん、知り合い?」


 同期のマドンナ・華音に認知されていない元生徒会長ほど、惨めなものはないだろう。


「あ、お、俺一応元生徒会長でして……ってそっか、篠塚さん、その時もう日本にいなかったのか」

「え、生徒会長だったんだ! じゃあ京汰くんは知ってるんだね」

「いや、実を言うとだな……俺もクラス同じになったことなかったから、お前のことはよく認知してなかった」

「え?! 生徒会長なのに?! 認知してないとかある?! 俺は藤井くんのこと覚えてたけど?!」

「なんで帰宅部員を覚えてるんだよ」

「そりゃ、城田とつるんでたら覚えるよ、顔くらい」

「あぁ……察し」


 城田というのは、俺が高校時代最もつるんでいたダチである。テニス部所属のお調子者で、こいつの存在感は確かにデカかった。平部員のくせに、たまにトリッキーな技を繰り出して笑いを取ろうとするせいで、部長より城田の認知度の方が高まってしまった、という逸話まで残している。そんなインフルエンサーとクラスでつるんでいたから、俺の存在も元生徒会長には残っていたということか。


 ネックレスをじゃらんと言わせながら、「生徒会長くらい……覚えとこうよ……」と目を見開いて俺を見る工藤瑠衣。大丈夫。俺の隣にちょこんといるお化けは、あんたのこと知ってたよ。誰かはちゃんと、あなたのことを見ています。ご心配なく。


「え、てか京汰んとこの生徒会長チャラくない?!」


 大貴がすかさず突っ込むが、会話のいいとこで、ギュルギュルギュル……とノイズが入る。


「ん、何の音?」


 首を傾げる瑠衣に、俺は苦し紛れの声を出した。もう我慢の限界に達してしまったようだ。


<ほぅら、寝坊するからぁ>

(うっせぇ)


 ギュルギュルギュル……


「誰の腹の虫だぁ?」


 探るようにして、俺をニヤニヤと見つめる大貴。くっそぉ、華音が笑っている。せっかくの感動の再会だというのに、やっぱツイてないなぁ俺。


「実は……起きてから何も食ってねえんだわ」


 やっぱりお前か! 腹鳴るとかお前可愛いな! なんてすっげー慣れ慣れしいことを言いつつ、だったら初の学食行こうぜ! と大貴が俺達を誘う。こいつ慣れ慣れしいのに嫌な感じがしない。不思議だ。さすがコミュニケーションお化け。


 大貴の声に救われて、俺と瑠衣と華音と悠馬は教室を後にした。

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