#8 教授は頭が悪いのかもしれない
出席を取り終わった教授は、「んー。やっぱ出席だけだと時間余るよなぁ。今日何しようかな」などと1人呟いている。え、出席以外やること決まってなかったの? ルーズすぎん?
教授が思ったより長く考え込み始め、教室の空気も多少緩んできたのか、わずかに学生同士の会話の声が聞こえ始めた。
「この先生、授業内容は割と行き当たりばったりっていう噂だよ」
突然話しかけてきたのは、通路を挟んで俺の隣に座っていた男子。
「え、知ってるの?」
「俺の兄ちゃんもここ出身なんだよね。学部も一緒」
ごめん、急に話しかけて! と笑い、彼は「永山
「へえ、兄ちゃんもここだったんだ」
「そ。だから俺は楽単情報とか持ってるよ。助け合おうぜ」
時間割どうなってんの? と聞かれたので、俺はスマホから時間割アプリを呼び出した。
「ほぉ〜。俺と2個被ってるね! 良かったら一緒に受けようぜ」
「あ、マジ? 受けよ受けよ!……ってかさ、俺の時間割、楽単どれくらいある? 1人で作ったから自信ないんだけど」
「え、待って、これ1人で作ったの?! 天才じゃん。7割方楽単だぞおい。俺なんて兄ちゃんから全部聞き出したのに」
<京汰には楽単を嗅ぎつける才能はあったようだね>
(犬みたいな言い方すんな)
本当に悠馬は、余計な場面で余計なことをほざきやがる。後でシバくぞ。
その後も悠馬の茶々入れにさりげなく対応しながら、大貴との会話は進んだ。こういう会話の同時並行、慣れてるんだよね。
結果、高校が俺の隣の区だったことや、とにかく学歴のブランド欲しさに受験勉強に励んだこと、入学前から興味があった文化祭の実行委員会に既に入会したことを把握。すげぇな自ら委員に志願するとは。
とまぁ、これくらいはたっぷりと会話できる時間を初回から与えた教授。よし! やること思いついた! と言った時には、出席が終わってからもう20分近く経っていた。俺がそこそこ努力して入学した大学の教授は、計画性ゼロでした。教授ってみんなこういうもんなの?
「初回だからこそ、自己紹介しよう! なっ! 僕が名前を呼ぶから、呼ばれたら前に来て自己紹介して。内容は名前と出身地と趣味はマストかな、できたら志望動機も。残り1時間だから……1人2分!」
「志望動機って、この大学に来た理由ってことですか?」
1人の男子学生が手を挙げて聞く。
「そう。人前で動機を話して、大学に通うモチベーションを高めて欲しいのだよ。……君達の半分は、3週間後に消えているかもしれないからね」
志望動機って、面接じゃんか。てか、大学ってそんなに人消えるの?
「この学部は消えやすいよ」と、大貴が俺に囁いた。そういうもんなのか。
「消えるって?」
「あまりにゆるゆるな授業だと、来なくなるんだよ。出席ない授業も多いし。だから期末レポートとか試験だけで乗り切るやつがいる」
「えっ、試験範囲はどうやって分かるんだよ」
「京汰、お前世間知らずだな。友達とかサークルのツテを活用すんだよ。いいか? 大学は人間関係がものを言う」
「そういうもんなのか……」
<僕も自己紹介したいなぁ〜みんなと仲良くなりたいなぁ〜>
(アホか)
悠馬が自己紹介したら、俺より注目されちゃうじゃないか。そんなの絶対許さねえぞ。
俺が悠馬を睨め付ける視線が強過ぎたらしい。大貴が「?」と俺を見てきたので、俺は慌てて首を横に振り、愛想笑いを見せた。
工藤瑠衣は、何ともつまらん、誰の記憶にも残らないような当たり障りのなさすぎる自己紹介をした。さすが元生徒会長。しかし外見はこげ茶の髪にピアスと指輪とネックレス。何があった。闇深そう。
華音様は……昔と何も変わらぬ麗しいお顔が、淡いピンクを基調にしたメイクでさらに華やかになっている。髪切って染めたのね。控えめに言って女神。隣の大貴も魂抜かれかけてない? 俺と目が合うと、少し口角を上げてくれた。うわぁ〜シャッターチャンス。
大貴は志望動機にも触れた。「ここの大学の名前を使って就活したかったから勉強頑張りました。あと、親にも勧められてたし、後々モテるための武器になりそうだったし」と。純度100%の清々しい答え。教室がちょっとどよめくけど、教授はノーツッコミ。こいつ初っ端から攻めてんなぁ。俺の好きなタイプかも。
俺はね、もう当たり障りのない自己紹介をしました。華音様と目が合うの恥ずかしかったわぁ。第一印象はおバカを封印。徐々に明かしていくスタイルですから。
途中、持参したサックスを急に演奏し始めた奴がいたり、出身地の魅力を力説する奴がいたりで1人2分なんて持ち時間は完全に無視され。14時30分に終わるはずが、14時40分に。次の授業ある人かわいそうやん。最初に悩んでた20分返せや教授。あんたの計画性ゼロを通り越してマイナス。
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