ピッカピカの春学期

#6 まだこいつと同居してます

『なーにやってんのほんとにもーう!!』



 ジリリリリリリ…………。



「うーまだ止まってねぇのかよもーう! てか起こせよバカ」

『ば、バカって! 通うのは京汰でしょ?!』

「どーせ悠馬も行くだろ! 朝飯食う時間ねーじゃん! 午後イチだからぜってー間に合うと思ってたのに!」

『大学生になったんならいい加減自分で起きろぉぉぉっっっ!!』

「世話係が口出すんじゃねぇ消すぞこらっ」



 ジリリリリリリ…………。



「あああもうっ、スヌーズうるせぇぇぇっ!!!」

『京汰の声量がスヌーズ遥かに超えてるって』

「冷静なツッコミはやめろ黙るんだっ」



 現在、11時30分。11時に起きて、余裕持って大学に行くはずだったのに。


 悠馬は起こしてくれないし、耳障りな音でいつまでも鳴り続ける目覚まし時計が鬱陶しい。ええ、自分でセットしたんですけどね。それにしても入学式の後から、悠馬くんがなんか厳しいんだけど。自分でやれーって。ぴえん。てかお前世話係だって。悠馬から俺の世話って仕事取ったら何が残るんだよ。怪しさしか残んねーじゃん。俺が役割付与してんのに! もう!


『ねーえ、独り言でかい。心の中の声がぜーんぶ吐き出されてるよ。僕めっちゃ責められてる。泣いちゃうよ?』

「勝手に泣いてろこの野郎」


 あー忙しいよ、誰かさんのせいで寝坊しちゃったから! と言いながら、ベッドから飛び起きて俺はせかせかと動き回る。


 本当は分かってる、俺が起きなきゃいけなかったんだよなぁ〜。でも悠馬いるからつい甘えちゃうんだよなぁ〜。ってことくらい。俺もそこまでバカじゃない。

 だから、朝イチ(11時30分が朝イチかどうかはさておき)にしては悠馬にキツく言いすぎたな、泣いちゃうって言ってたもんな、ごめんな、って思うけど、それを言葉にしたら何だか負ける気がするから、口が裂けても言わん。そして多分、ごめんなって4文字すら言えなくて、背中を向けながらあちこち動き回ってごまかしてる俺の心を、多分この犬系イケメン式神は分かってる。だからムカつくし憎たらしい。でもだからこそ頼っちゃう。



 何なんだ、この曖昧な、アンビバレントな気持ちは。



 これは恋か。



 …………いや、死んでもそんなことはない。


 誰が、だーれがこの俺より顔立ち整っちゃって下手にモテ需要発揮しそうな、言葉も外見も余計すぎる式神に恋するってんだ。そもそも俺らは恋敵のはずだったろ?


『手が止まってるよ!』


 …………ん?

 ほら、シャキッとして! と俺の両肩を持つ悠馬に、胸がときめいて……全身がちょっぴり熱くなって——。


 いやいやいやいやいやいやいやいやいやっっっ!!!


 んなわけないっ!! 俺は悠馬にムカついてる! 恋敵だもん! 余計な一言いっぱい言うもん! 悠馬は憎たらしい式神だ! うん、出会った時からずっと、ずーっと憎たらしいと思ってる! 間違っても、す、好きなんて……いやいやいやいや! 憎たらしいだけ! ちゃんとしろ自分! まだ寝ぼけてんのか俺は! 目を覚ませ俺!!!


『京汰くん? どしたのよ、首取れそうなくらいブンブン振って。ヘドバンしてんの』

「しっ……してねぇわっ!!」




 こうして今日も、ドタバタな1日の始まり。俺と悠馬の生活は、良くも悪くも安定している。

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