#5 俺はブレザーを脱ぎ捨てる

 華音様がいなくなってからの2年間を振り返ってみたけど、かなり駆け足で振り返れちゃった気がするのは俺だけ? もうちょいスロー再生の方が良かったかしら。



 ざっくりしてたけど、俺の高校3年間はまぁこんなもんです。



『ねえ京汰のことばっかひどくない?! 僕もメインキャストのつもりなんだけど?! ほんっと君はいつまでも自己中で成長の欠片もないというか何というか。もうとにかく自己中。利己的。セルフィッシュ』


 ……最後の3つ全て同じ意味じゃねえか。


 まぁそれは置いといて、確かに悠馬についての説明は全編カットしておりました。綺麗バッサリ、こちらの都合でカットしてたんですけど本人にバレました。くそぉ、しまいには俺の悪口また言いやがって。マジムカつく。でも仕方ないからちょっとだけお話します。



 俺の死神……ゴホンゴホン失礼、神の悠馬は高校の3年間、俺の世話係をちゃーんとやってくれてて、受験期はマジで教育ママに見えるくらい、働きアリにも働きバチにも見えるくらい一生懸命働いていました。赤本コピーして俺に解かせて、しかも志望校全部の赤本を5年分3周させて。3食に+αで夜食も作って。きっと、海外勤務してる俺の母親より動けてる。そこは感謝してます。でも、受験当日(本命校)の弁当を開けた時、ご飯の上に海苔で“必勝”じゃなくて“調伏ちょうぶく”って書いてあったのは本気で恥ずかしかった。隣の席の奴が、一瞬こっちを見たんだよ。で、「ぎょっ」って顔をしてた。俺も1回開けた蓋閉めたもんね。大学は敵じゃねえから! フルボッコにするもんじゃねえから! てか陰陽師の端くれ相手に調伏って式神の分際で書いてきやがったのも結構憎たらしく……もしかしたら、その負のエネルギーが原動力になって受かったのかもしれない。それもどうかと思うけど。てかあいつどんだけ器用なんだよ。


 ……まぁいいや。こんくらいで悠馬の説明は終わりにしますね。俺にしては結構話してあげた方。



 話を戻そう。悠馬のは余計でした。



 そんなこんなで俺は才女・莉央ちゃんとお別れし、晴れて大学生になったわけです。東大じゃないけど。そこそこの大学に。


 ちなみに俺は、某私大の社会学部にいる。興味あるのは割と何でも学べるっていう、一見魅力的な一方で、専攻が自分でも分からなくなるような学部。やりたいことったって、陰陽道は絶対やんなきゃいけないし、他にやりたいことってのが特になかったんだよなぁ。何かの専門家になるとか考えてなかったし、何かのお店やるとか医者やるとか教師になるとかいう夢もなかったし。


 かといって、サラリーマンの自分を想像できたわけでもなかった。でも両親も悠馬も、「大学くらいは行っとき」と口を揃えて言い続けた。母親と同じく、海外勤務の父親はzoomで顔を合わせる度に「行きたい大学決まったか?」なんて聞いてきて、あぁ、こりゃ行かなきゃならんのだなと俺は静かに悟ったわけである。そして同じような時期に、元カノ・莉央の才女っぷりが露見したのである。


 だから俺はひとまず勉強して、動機は何となくで入学してしまった。でもまぁ「大学は人生の夏休み」って言うし。一応4年間あるわけだし。自分探しの第一歩として、外見だけとりあえず垢抜けとけばオッケーって勝手に思って今に至ってる。



 入学式で初めてスーツを着て。まぁ高校の制服がブレザーだからパッと見あんま変わんないけど。でも気持ちだけはちょっとシャキッとした気がして。見知らぬ人に大学の門の前で写真撮ってもらったのを海外の父親に送ったら、『おめでとう似合ってるよ学費あと何万かかるんだ』っていう棒読みメッセージが来た。大学行けっつったのあんただろ。もうちょい感動しろよ。ただでさえスマホ越しなんだから豊かな感情表現しろよ。って思ったから、『大根役者か』って返信しておいた。ちなみにこれは既読スルーされている。


 高1の時のバケモン美男こと皆川先輩調伏で自分の力不足を思い知ったので、まずはサークルよりも陰陽道を優先しようと決めた。悠馬が放置される時間長くなるのかわいそうだしな。一応俺にも情けってもんはある。だから入学式が終わった後は、新歓の人混みに突っ込むことなくまっすぐ帰宅。俺は俺なりのキャンパスライフを謳歌するつもりだ。




 あ、こっからは現在形な。明日から授業が始まる。必修のクラス分けは既にされてるけど、どんな人がいるんだろ……わくわく。

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