#4 格差問題って笑えない
俺のモテ期はGW明けも続いた。彼女作ろうとは決めたんだけど、やっぱり妥協というか、惰性で付き合うのはいけないと思ってたのね。相手にも失礼だし。だからなかなかOKを出さなかった。
でもある日、初めて、俺がちょっと前から気になってた女の子に呼ばれたんだ。
「クラスが同じになってから、気になってて……多分その、す、好きで……もしまだ彼女とかいなければ、私と付き合ってもらうこと、できるかな……」
お相手は山崎
普通に可愛い。155cmくらいの小柄な体と小顔に、肩にちょこんとかかるくらいの、焦げ茶のボブヘアがよく似合う。逆に彼氏いないの? って聞きたくなるくらい。この子なら、俺もちゃんと向き合って付き合えそうな気がする。
俺は莉央に手を差し出した。今これ、「手を出した」って読んだ奴しばくからな。俺そこまでデリカシーない奴じゃねえぞ。
「ありがとう。……これから、彼氏として、よろしく」
莉央は目を見開いて、でもすぐに俺の手を握った。俺がもう片方の手で莉央の頭をくしゃっとすると、莉央は綺麗な笑顔を見せた。
<ふうーっ! 京汰くんおめでとっ♡ 莉央ちゃんのこと大事にするんだぞっ>
(もちのろん)
あ、悠馬は学校では気配を消して音声のみになる、と補足しておこう。そもそもバケモンだし、普通にこんなワンコ系イケメンが校内を
まぁ、こうして俺は晴れてリア充になったわけである。
莉央の場合は、付き合ってみたら何か違った、とかいうのはラッキーなことになかった。普通に可愛いし良い子。ただ華音様のように、悠馬が視える才能はなかった。だから俺も、悠馬のことは話さなかった。陰陽道のことも黙っていた。無闇に言うのも良くないからね。
莉央といる中で、恋愛のハウツーは一通り学んだと思う。一緒にいる中で自然と好きになったし、莉央も俺を好きだと何度も言ってくれた。
特筆すべきは、莉央がめちゃくちゃ勉強熱心だった、という所だろう。ここが本当に俺とは正反対。まぁ莉央の家庭が法律家や学者揃いだってのも影響してるとは思うけど、彼女の偏差値は常に70付近。俺は超努力して60超えるくらい。莉央は国立を目指していた。勉強に関しては、真面目に次元が違ったなぁ、と思う。お家も何かすげぇ豪邸だった。お手伝いさんが3人もいたことにめっちゃびっくりした。悠馬はそのうちの1人をスカウトしたいとか言ってたな。俺1人でもめっちゃ手かかるんだってさ。心外な。
お互いに受験勉強を頑張っていたけれど、最初から同じ大学に行く気はなかった。てか行けないもん。頭脳が決定的に足りなかったから、俺は早々に諦めたし、莉央も期待してなかったはずだ。
恋愛自体は極めて順調に続いていたのだけれど、あっぱれ、と言わざるを得ない事件が起きた。まぁこれは事件というか栄光なのだけど。
「京汰、見て! 私未だに信じられない!!」
莉央のおかげで継続して努力する癖がついた俺は、自分が思い描いていたよりも遥かにレベルの高い有名私立大学に合格することができていた。これには父親もびっくりで、「お前すげぇじゃん! さすが俺の子! 運の強い子!」と意味不明に舞い上がってたな。
そしてあとは、国立志望の莉央の結果を待つだけになっていた。
彼女が俺に見せたのは、合格発表の掲示板の写真。弾ける笑顔で番号を指差す莉央。その端にちょっぴり写り込んでいる、赤い大きな門。
何を隠そう、これは東京大学の合格掲示板なのである。莉央はその年、俺の高校で唯一の東大現役合格生になったのだった。
「な、なんと……!! おめでとう莉央!!」
こうして俺達は互いの合格を祝って喜んだのだけれど、その直後に俺らの間に不穏な空気が漂い始めた。
「あのね京汰、突然のことで本当に申し訳ないんだけど……」
「どうした?」
「別れて、欲しい」
「……は?」
「本音言えばね、一緒に東大行きたかった。でも京汰さ、『俺には無理無理〜!』って、早々に諦めたでしょ。世の中には偏差値30くらいあげて難関大学に合格する人もいるのに。なんかそれがさ、私悲しかったんだ」
「え、あっ、いや、俺……俺は俺なりに努力してたつもりだし、莉央のそんな本心なんて知らな」
「私ね、京汰には京汰に合った人を見つけて欲しい。私も東大で自分に合う人を探してみる。……今までありがとね京汰、すごく楽しかったよ」
「え…………」
目の前に莉央がいるのに、「おめでとう本当に!」と腕を伸ばして抱き寄せようとしたのに、その腕は宙ぶらりんになってしまった。触れたら殺されそうな気がするくらい、その瞳は真剣だったのだ。
「ちょ、莉央……」
端的に言うと、振られたのだ。
学力格差を前にして。
確かに、「彼女が東大です」は俺にとってはなかなかのパワーワード。
いや確かにね、早々に諦めましたよ。でも俺……偏差値15くらいは上げたんだけどなぁ……莉央の許容範囲は2倍の偏差値30upだったようだ。それはね……ちょっと俺には、結構なかなかすごくとっても非常に難しかった。だって俺、1年生の時は学年最下位だったんだぞ? そっから中間層に食い込んで、3年生の夏で上位層の端くれに引っ掛かったんだ。映画化レベルの下克上だったんだけどなぁ。多分華音が見てたら、もっと喜んでくれてたと————。
いや、もう切り替えたんだ。今そばにいない人のことを考えてどうする。
……まぁだからね、潔く腹を括ったんですよ。
俺は身を引こうと。このままちゃんと振られようと。
こうして俺と莉央の甘い日々は、卒業を機にあっさりと終わりを告げたんだ。
あぁ切ない……!!
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