032 名前
―――あっ!
入口付近の柱を背に
白い柱に黒い制服のコントラスト。夕日に照らされ、どこか幻想的な雰囲気がある。このまま走り続けたいところだが、俺のちっぽけなプライドがブレーキをかけた。息を切らすほど走ってくるなんて、何かこう、恥ずかしい。
「…。」
あと数メートルというところで、必死に息をととのえる。こんなプライドにさよならできたら、どれだけ楽だろうか。
「桜井さん。」
さすがに「
―――それでも…ベストの答えがわからないから、難しいんだけどね…。
知識だけでうまくいくほど、人間関係は甘くない。十数年そこそこの人生経験から得た知識。…何か
「
「あ…ありがとうございます。」
ととのえたはずの
その後は、
■
「おーい、
特に約束をしていたわけではないのだが、来てしまった。この部屋、俊にとっては仕事場にあたるので、
「あれ、大樹?うーん…今日、全国優勝したやつの表情じゃないな…あー、悠美ちゃん来てくれたけど、自分が空回りしすぎて、いたたまれなくなったん?」
なぜわかる。超能力の
「だって、いつものことじゃん。」
「…。」
見事なまでにバッサリときられてしまった。中学時代…まあ、いわゆる初恋もこんな感じだった。その時は見事にフラれ、俊に励まされた記憶がある。
あれから俺も成長したつもりではいる。同じ
「まあ、良いんじゃない?
どうやら無理をして格好をつけていたのも、ばれていたらしい。さすがに俊の目はごまかせない。
―――嫌われたりしてないかな…。
不安でしかたがない。というか、今日一日、テンション乱高下。緊張感、開放感、達成感、不安感がジェットコースターの
まあ、さすがにこのテンションのままでは俊に申し訳ないので、そろそろ普段の感じに戻ろう。
「ところで、動画の編集はどんな感じ?」
「まあまあかな。もう少しで公開できそう…って、忘れるところだった!
「おっちゃんから?」
優勝の報告に
「うん。ほら、世界大会の関係者登録。」
会場には当然ながら、
俊や東のおっちゃんは、規則上は、俺のスポンサーという立場になる。説明を受けた限りでは、一般のギャラリーさんとそれほど大差ないように思えたが、ルールはルール。しっかりと申請しておかなければならない。さっき登録用紙のデータをもらって、ひとまず二人にメールしておいたのだ。
「ああ、関係者パスのやつか。でもあれって、提出期限まで3週間くらいなかったっけ?」
「しばらくお店休んで、サーフィンの練習に行くんだって。」
「…。」
納得しすぎて声が出なかった。しかし、おっちゃん、本業の方は大丈夫なのだろうか。少々おせっかいな気もするが、FPSの
「あとは…あ、明日よろしく!」
「おう。何か台本的なものあったほうが良い?」
明日はシュンカンゲームズとワシさん、コラボ動画の撮影だ。一応、スペシャルゲストというかたちで、俺も呼ばれているのだ。
「取材受けてたときの感じで良いと思うよ。専門的なことはワシさんに丸投げだし。」
知識、ビギナー。戦術、ビギナー。反応
「確かに。じゃあ、そういうことで。」
「うん。また。」
帰り道、わずか数メートルの距離。いつもなら何とも思わない「止まれ」の標識が、
人生の転換点が訪れているらしい。
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