031 緊張
「どうだった?初めての取材対応。」
「緊張したけど…楽しかった。ってか、
今回は初回だから良かったものの、2回、3回と受けたら、言うことが無くなってしまいそうだ。
「まあ、聞かれたことに答えるだけだからね。」
さも当たり前といった返しをされたが、それがなかなか難しい。本でも読んで、語
「じゃあ、撮影行ってくるね。」
「おう。俺は観客席でみてるよ。撮影もしなきゃだし。」
俊には撮影という大切な仕事がある。撮影で思い出したのだが、
■
『さて、ここからは全国大会振り返りパートです!ゲストは今大会優勝者ダイキ選手!』
「よろしくお願いします。」
会場から割れんばかりの拍手。とっても嬉しい。
『そして準優勝者カナ選手!』
「お願いします。」
再び割れんばかりの拍手。今回はファンの方々だろうか、声援も追加されている。何だか
そのまま紹介が続く。撮影に参加しているのは、ベスト4進出者と
『まずはやはり決勝戦ですね。決勝戦から振り返っていきましょう!』
背後のスクリーンに、決勝戦の映像が流される。ちなみに俺の前に設置されているモニターにも、同じ映像が流れている。
―――うわ…俺、こんな表情してたんかい…。
「あ、やばい!ピンチ!」を絵に描いたらこうなる、そんな表情。これでは俊に心を読まれるわけだ。
『まずはカナ選手が放った状態異常攻撃…
全世界で2回…そりゃ知らないわけだ。
「えっと…ダイキ選手はカウンター主体なので、まずはこっちが優位をとらなきゃ…と思いまして。はい。」
『なるほど。主導権争いの一手…ということですかね?』
「はい。ダメージ量の関係で滅多に使われていない技ですし、意表を突く目的もありました。」
『確かに苦悶の霞で与えられるダメージ、炎陽ならば一発で出せますもんね。これを受けてダイキ選手、どうでしたか?』
「見事に意表を突かれました。」
会場から笑いが起きる。ちょうど、俺の顔のドアップ。しかも「やばい!」というときの表情。恥ずかしい。
『その時の表情ですね。』
「あはは…はい。ずっとノーダメージでこれていたので、かなり焦りました。それに不勉強で苦悶の霞のことを良く知らなくて…いつまで続くんだろうってひやひやしてました。」
■
『そんな状況のダイキ選手にさらなる脅威。カナ選手の連続攻撃が始まるわけですが、これはプラン通りの展開だったのでしょうか?』
「はい。ダイキ選手のプレイングスキルを考えると、回避されることは想定内でした。普通、
会場から、同意の声が上がる。
『その後に続いた桜吹雪からの
「普通に霰覆しをうってもかわされることはわかっていたので、おとりに使うことを考えました。ちょっと贅沢すぎる使い方ですけど、一撃入ればそのまま押し込める…と思っていたので。」
『その一撃は見事に決まり、ダイキ選手は今大会…地方大会から数えて初めて技を受けるということになりました。これはかなりの衝撃だったのではないでしょうか?』
「うまく
『ダイキ選手、今大会初出場ですもんね。これでかなり形勢が傾いたかに思えましたが、そこからダイキ選手の反撃が始まります。』
スクリーンにそのシーンが流される。桜吹雪の途中で、再び一時停止が入った。
『ここで誰しもが
「はい。ダイキ選手の技構成がわからなかったので、ここは私のプレイングミスです。残花の雫が考えられる場面ですけど、安全にガードするべきでした。」
『そこが勝負を分けたんですね。解説の長峰さん。ここの判断は、どう考えられますか?』
「うーん。結果的にはカナ選手のおっしゃる通り、あそこの判断が全てなわけですが…。あの状態ではベストな判断だったと思います。ダイキ選手が
普通に戦っては、俺に勝ち目などない。技と技でぶつかり合ったら、軽く吹き飛ばされるだけ。
『そこに来ての回避…いや…なんど見てもしびれるシーンですね。桜吹雪をうつタイミングでは想定されていたと思うのですが、これは用意されていたプランなのでしょうか?』
「いや…その場の思い付きです。結構、賭けでした。普通にガードされてしまったら打つ手なしでしたし。」
「機械的な判定ですが、システム上、ダイキ選手が残花の雫を使っていた場合、カナ選手の勝ちだったようです。」
安井さんからの解説が入る。想像以上に
『なるほど…まさに紙一重の勝負だったということですね。ありがとうございます。では、続いて準決勝を見ていきましょう。』
■
動画の撮影は30分ほどで終了した。これで全国大会の全日程が終了。あとは世界大会に向けて、練習を積むのみ。
「撮影、お疲れさま。はい、炭酸で良い?コーヒーもあるけど。」
「ありがと。炭酸いただきます。」
関係者スペースでパソコンを広げている
「ちょっと待ってね。もう少しでアップロード終わるから。」
「おう。」
プシュッ、という音が人通りの少なくなった廊下に響く。
「…よしと。帰ろうか。」
「うん。慌てんけど良いの?」
「あ、もしかしてユミちゃんのこと待ってる?」
図星。
「…。」
「仕方ないなー、シュンカンゲームズの方の撮影は明日で良いよ。」
どうやら背中を押してもらえているらしい。
「…いいの?」
「まあ、待ってても来てくれなかったときは、なぐさめてあげるよ。撮影しながら。」
「あはは…そうなる可能性濃厚。まあ、そのときはよろしく。ありがとね。」
そんなこんなで俺は会場外にあるベンチに腰をおろした。俊はまだまだ動画の編集がたまっているらしく、先に帰っているとのこと。俺の記憶が正しければ、模試は3時くらいに終わったはず。
まあ、会えたらうれしいな、くらいの感じ。
「うわっ!?」
突然のバイブレーション。
「あ…。」
――――――あの…まだ会場にいらっしゃいますか?
「はい。います。」
――――――北口のあたりにいるんですけど…。
「あの…そっちに行きます。」
俺がいるのは南口。ちょうど間反対。よくよく考えると、
走る。
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