031 緊張

「どうだった?初めての取材対応。」



「緊張したけど…楽しかった。ってか、しゅん、取材いっぱい受けてるんでしょ?話題が尽きないよね…。」



今回は初回だから良かったものの、2回、3回と受けたら、言うことが無くなってしまいそうだ。



「まあ、聞かれたことに答えるだけだからね。」



さも当たり前といった返しをされたが、それがなかなか難しい。本でも読んで、語力をきたえよう。自分の考えを言語化する力は、きっと将来役立つと思う。



「じゃあ、撮影行ってくるね。」



「おう。俺は観客席でみてるよ。撮影もしなきゃだし。」



俊には撮影という大切な仕事がある。撮影で思い出したのだが、悠美ゆみさんのメールを眺めてニヤニヤしていたシーン、あれは絶対に消してもらおう。





『さて、ここからは全国大会振り返りパートです!ゲストは今大会優勝者ダイキ選手!』


「よろしくお願いします。」



会場から割れんばかりの拍手。とっても嬉しい。



『そして準優勝者カナ選手!』


「お願いします。」



再び割れんばかりの拍手。今回はファンの方々だろうか、声援も追加されている。何だかうらやましい。


そのまま紹介が続く。撮影に参加しているのは、ベスト4進出者と結城ゆうき社長、開発の遠井とおいさん、今大会の解説を務めてくださった方などなど。話題は当然ながら、今大会での試合についてだ。



『まずはやはり決勝戦ですね。決勝戦から振り返っていきましょう!』



背後のスクリーンに、決勝戦の映像が流される。ちなみに俺の前に設置されているモニターにも、同じ映像が流れている。



―――うわ…俺、こんな表情してたんかい…。



「あ、やばい!ピンチ!」を絵に描いたらこうなる、そんな表情。これでは俊に心を読まれるわけだ。



『まずはカナ選手が放った状態異常攻撃…苦悶くもんかすみですね。先ほど実戦での使用回数を確認したところ、今年度の集計で、わずかに2回しか使われていないそうです。全世界で2回ですからね。カナ選手、この技を出してきた意図、どのあたりにあるのでしょうか?』



全世界で2回…そりゃ知らないわけだ。



「えっと…ダイキ選手はカウンター主体なので、まずはこっちが優位をとらなきゃ…と思いまして。はい。」


『なるほど。主導権争いの一手…ということですかね?』


「はい。ダメージ量の関係で滅多に使われていない技ですし、意表を突く目的もありました。」


『確かに苦悶の霞で与えられるダメージ、炎陽ならば一発で出せますもんね。これを受けてダイキ選手、どうでしたか?』


「見事に意表を突かれました。」



会場から笑いが起きる。ちょうど、俺の顔のドアップ。しかも「やばい!」というときの表情。恥ずかしい。



『その時の表情ですね。』


「あはは…はい。ずっとノーダメージでこれていたので、かなり焦りました。それに不勉強で苦悶の霞のことを良く知らなくて…いつまで続くんだろうってひやひやしてました。」





『そんな状況のダイキ選手にさらなる脅威。カナ選手の連続攻撃が始まるわけですが、これはプラン通りの展開だったのでしょうか?』


「はい。ダイキ選手のプレイングスキルを考えると、回避されることは想定内でした。普通、春霞一閃しゅんかいっせんがかわされることなんてないんですけど…。」



会場から、同意の声が上がる。




『その後に続いた桜吹雪からの霰覆あられこぼし。この霰覆しがいわばフェイントだったわけですが、このあたりはどうでしょうか?』


「普通に霰覆しをうってもかわされることはわかっていたので、おとりに使うことを考えました。ちょっと贅沢すぎる使い方ですけど、一撃入ればそのまま押し込める…と思っていたので。」


『その一撃は見事に決まり、ダイキ選手は今大会…地方大会から数えて初めて技を受けるということになりました。これはかなりの衝撃だったのではないでしょうか?』


「うまくてのひらの上で転がされちゃって…。なんというか、経験の差を痛感しました。」


『ダイキ選手、今大会初出場ですもんね。これでかなり形勢が傾いたかに思えましたが、そこからダイキ選手の反撃が始まります。』



スクリーンにそのシーンが流される。桜吹雪の途中で、再び一時停止が入った。



『ここで誰しもが残花ざんかしずくを予想していたと思うのですが、カナ選手はいかがでしたか?』


「はい。ダイキ選手の技構成がわからなかったので、ここは私のプレイングミスです。残花の雫が考えられる場面ですけど、安全にガードするべきでした。」


『そこが勝負を分けたんですね。解説の長峰さん。ここの判断は、どう考えられますか?』


「うーん。結果的にはカナ選手のおっしゃる通り、あそこの判断が全てなわけですが…。あの状態ではベストな判断だったと思います。ダイキ選手が定石じょうせき通りに残花の雫につなげていれば、カナ選手の勝利ですし。これはダイキ選手の作戦が素晴らしかった、そういうことだと思います。」



普通に戦っては、俺に勝ち目などない。技と技でぶつかり合ったら、軽く吹き飛ばされるだけ。



『そこに来ての回避…いや…なんど見てもしびれるシーンですね。桜吹雪をうつタイミングでは想定されていたと思うのですが、これは用意されていたプランなのでしょうか?』


「いや…その場の思い付きです。結構、賭けでした。普通にガードされてしまったら打つ手なしでしたし。」


「機械的な判定ですが、システム上、ダイキ選手が残花の雫を使っていた場合、カナ選手の勝ちだったようです。」



安井さんからの解説が入る。想像以上に薄氷はくひょうを踏んでいたようだ。



『なるほど…まさに紙一重の勝負だったということですね。ありがとうございます。では、続いて準決勝を見ていきましょう。』





動画の撮影は30分ほどで終了した。これで全国大会の全日程が終了。あとは世界大会に向けて、練習を積むのみ。



「撮影、お疲れさま。はい、炭酸で良い?コーヒーもあるけど。」


「ありがと。炭酸いただきます。」



関係者スペースでパソコンを広げているしゅんと合流。



「ちょっと待ってね。もう少しでアップロード終わるから。」


「おう。」



プシュッ、という音が人通りの少なくなった廊下に響く。



「…よしと。帰ろうか。」


「うん。慌てんけど良いの?」


「あ、もしかしてユミちゃんのこと待ってる?」



図星。



「…。」


「仕方ないなー、シュンカンゲームズの方の撮影は明日で良いよ。」



どうやら背中を押してもらえているらしい。



「…いいの?」


「まあ、待ってても来てくれなかったときは、なぐさめてあげるよ。撮影しながら。」


「あはは…そうなる可能性濃厚。まあ、そのときはよろしく。ありがとね。」



そんなこんなで俺は会場外にあるベンチに腰をおろした。俊はまだまだ動画の編集がたまっているらしく、先に帰っているとのこと。俺の記憶が正しければ、模試は3時くらいに終わったはず。


まあ、会えたらうれしいな、くらいの感じ。



「うわっ!?」



突然のバイブレーション。



「あ…。」



――――――あの…まだ会場にいらっしゃいますか?



「はい。います。」



――――――北口のあたりにいるんですけど…。



「あの…そっちに行きます。」



俺がいるのは南口。ちょうど間反対。よくよく考えると、悠美ゆみさんの学校は隣町だ。隣町からのバスが止まるのは、北口のほう。


走る。

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