024 会場
二日目からは実況さんが入る。試合も全てメインステージの
スマホのバイブレーション始動。
―――誰だろう?…あ、悠美さんだ。
悠美さん、今日は模試で学校に行っているそう。高校生はいろいろと忙しいのだ…俺も高校生だけど。
――――――会場に行けなくてごめんなさい。大会、がんばってください!応援してます!
謝ることなんて全然ないし、こんなメールをもらえるだけで全然うれしい。返信に悩むこと数分。スマホを片手にうろうろする俺の姿、俊のカメラでとらえられてしまった。また何か言われるかもしれない。
送信ボタンを押した瞬間、会場の照明が少し暗くなった。いよいよ二日目がスタートする。
■
『本日はお足元の悪いなか、FPS全国大会にお越しくださいまして、ありがとうございます。FPS運営インテグラル社長、
スポットライトが当たり、社長さんの挨拶が始まった。司会さんとの当意即妙な掛け合いが続き、会場があたたまってくる。ちなみに司会はゲーム好きで有名な芸能人の方。
『それではFPS全国大会…決勝ステージの開幕です!』
■
『それでは第一試合を始めます。…前回大会ベスト4…密度の高い連撃は、まるで春一番に舞う花のごとし。今年も画面を桜色に染めるのか!ゲン選手の入場ですっ!』
格闘技の大会さながらの演出が加えられている。スポットライトに照らされて歩を進めるのは、なんと全国大会最年少出場記録を持つ中学生。ここまで勝ち上がっているということは、相当な実力者。大人げないなんて言ってられないので、最初から全力でいこう。そもそも俺も子ども。
―――よーし…頑張るぞ!
『…対するは…大会初出場にして優勝候補筆頭…全てをかわし、全てを打ち砕く…彼のカウンターは新時代の幕開けなのか!ダイキ選手の入場ですっ!』
とんでもない紹介をされてしまったが、ここまで来れた以上、目指すは優勝のみ。おっちゃんの海外でサーフィン計画も、今日の俺にかかっている。
『それでは試合開始です…レディーファイッ!』
「お願いします!」
ベスト8からは、一試合ごとに技の再設定が可能となっている。大会一日目のデータを俊がまとめてくれたが、これはあくまでも参考資料。ゲン選手は紹介にもあった通り、連撃戦術。再使用までにかかる時間の少ない技を中心として、密度で押し切ってくるスタイルだ。
―――俺にとっては好都合だけど…。
相手の攻撃回数が多ければ、こちらのカウンターの回数も増える。おそらく決着まで、そんなに時間はかからないはずだ。
『
淡い光が広がる独特のカットイン。開幕早々、やはりこの技から入ってきた。
『
「桃花水」は、技の再使用までにかかる時間を短縮する効果がある。どうやら今までと同じ戦術でくるらしい。対戦ゲームは得意を押し付けた方に分がある。特に一瞬の判断が求められる格闘系ゲームならなおのこと。
『でたー!ゲン選手の十八番、桃花水!1分間のラッシュが始まる!』
―――むむむ…。
「桃花水」の効果持続時間は1分。ここから1分間は相手が先手をとってくる。耐えきらなければ。
―――まあ…どっちみちカウンターだから、後手に回るんだけど。
『舞えっ!桜吹雪!』
始まった5連撃。一つひとつのダメージは大きくないが、一つ受けてしまうと残りの回避ができない。攻撃を受けて吹っ飛ばされている間は、任意の行動がとれないのだ。初撃の回避が重要。
―――桜が舞って…刃に変わって…ここっ!
桜吹雪の連撃中は、吹っ飛ばし無効が働いている。ダメージは与えられるのだが、技を止めることができない。そのまま、二、三、四、五と連撃をさばいていく。
『な、なんとーっ!桜吹雪の5連撃を全てカウンター!これはかなりのダメージだっ!』
主導権は握った。後は回避だけでも勝てるが、この状態を2分半維持できる余裕はない。このまま押し切る。
『散れ…
大技がとんできた。桜吹雪につなげることができる、専用技だ。桜吹雪で命中した攻撃数に応じてダメージが上昇する。全てかわした俺にとって、そんなに脅威ではない。
―――右が前に出て…開いた!ここで回避…からの…っ!
大技であるほどタイミングは読みやすい。動きが大きいので、わかりやすいのだ。カウンターの右ストレートが、桜吹雪ごと相手キャラクターを吹き飛ばす。
『これもカウンターっ!ダイキ選手、隙が全くありません!ゲン選手のゲージは残りわずか…ここから盛り返すことはできるのか!』
「桃花水」の再使用時間を減らす効果は残り30秒。そろそろ決着のとき。次で決める。
『線上に
厄介な技が続く。「霰覆し」も連撃系の技。ただ、「桜吹雪」と違い、攻撃が往復してくるのだ。前からの攻撃だけに対処すればよいわけではない。前後、前後と方向をスイッチしつつ、受ける必要がある。
―――方向キーを動かすだけなんだけど…。
一つ動作が増えるだけで、タイミングがよりシビアになる。ここは回避に徹したいところだが、「桃花水」の効果で「桜吹雪」が既に使用可能となっている。このゲーム、技の途中でもカットインが可能。こちらが次の攻撃に備えて後ろを向いた瞬間に合わせられると、結構厄介。さすがに背後からの攻撃を回避することはできない。
―――狙いは一撃目。
前方向からの攻撃が確約されている一発目。これをカウンターするしかない。「霰覆し」には吹っ飛ばし無効はついていない。技を止めてしまえばこっちのものだし、次のカウンターでおそらく削り切れる。
―――今っ!
『決まったー!最後も重すぎるカウンターの一撃っ!第一試合、勝者は…ダイキ選手ーっ!』
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