023 妄想
「ぬふふふっ…もう…。」
翌朝、会場へと向かう電車の中で、ふにゃふにゃしている。気を抜いたらとけてしまいそうなレベル。幸せが止まらない。正確にはデートの約束をとりつけただけなのだが、俺にとっては大きすぎる一歩なのだ。
ちなみに
「だ、
「むふふふん…ゆみさん…。なーんて…。むふふふ。」
「もう…。まあ、いいか。あ、一つだけ報告ね。ワシさんのこと、覚えてる?」
天下のスポンサー様に
「うん。覚えてるよ。」
地方大会の決勝で対戦した大学生の方。本名は
「おうっ!?急に戻ったな。
それでさ、そのワシさん、動画投稿始めたらしいのよ。俺が所属している事務所に入るんだって。さっきマネージャーさんから連絡があった。」
「へえー。やっぱりFPSの実況?」
「うん。ほら、大樹がお願いしてくれたおかげでさ、事務所に所属している人、みんなFPSのコンテンツ使えるようになったんだ。まあ、使用料は払わなくちゃいけないけど。」
俺の行動は、思っていたより多くの人に利益をもたらしたらしい。狙ったわけではないが、素直に嬉しく思う。
まあ、現実的に考えると、公開する方向に舵を切ったということだと思う。もともとFPSの運営インテグラルは、基本的に商用利用を認めないスタイルを貫いてきた。そのかわり公式動画が大変に充実しており、先日の地方大会ダイジェスト版は大会終了後、1時間で無料公開されていた。
「それで…何かあったの?」
俊がわざわざそんな話をするということは、何かあったということに違いない。そもそもワシさんと俺は面識があるといった程度で、連絡先すら知らない。世間話の一環としてこの話題を持ち出したとしたら、報告という言葉と
「実はさ、コラボすることになった。しかも全国大会の解説動画で。」
「ま、まじかい。」
ちょっと驚いた。シュンカンゲームズは登録者100万人ごえの有名どころ。友だち
俊は仕事に関しては計算高いところがある。別に悪い意味で言っているわけではないし、ビジネスはそういうものだと思っている。
「まあ、ほら。俺さ、FPSあんまり詳しくないじゃん。大樹もさ、めちゃくちゃ強いけど…ねえ。」
なるほど、確かに俺も詳しくはない。知識だけで比べたら、俺はこの大会最下位だと思う。
「それでプロを呼ぼうってことか。納得。」
解説動画と
―――まあ…俺はチートだから例外として…。
「うん。それでさ。大樹も一緒に出てくれんかなー、と思って。」
「え…俺?多分、専門的な解説の役には立たないと思うけど…?」
前回同様、抽象的な話しかできないと思う。カウンターは、こう、何と言うか、感覚なのだ。
シュパッときた攻撃をサッとかわし、バスッとカウンター。
細かいタイミングの説明はできるけれど、それはあまりにテクニカルすぎる。シュンカンゲームズの視聴者層、別にFPSプレイヤーばかりというわけではない。
「まあ、そこはプロに任せて!やっぱりねー、全国大会優勝者が登場!っていうネームバリューは欠かせんのよ…。」
再生回数を巡る切実な事情があったようだ。なにより主役はあくまでも俊。そして俊は動画投稿のプロフェッショナル。俊が大丈夫と言う以上、素人の俺がとやかく言うのは出しゃばりすぎというところなのだ。もちろん、友だちとして意見するときはあるけれど。
と、ここまで思考して、やっと言葉の理解が追い付いた。
「いつの間に俺、優勝したことになってるん?」
「あ、ばれた?でも、優勝するでしょ。普通に考えて。一日目最後の試合は…まあ、ちょっと危なかったけど、別に負けそうとかそういうわけではなかったでしょ?ノーダメージが継続できないかも…ってくらいで。」
「まあ…そうだけど…。」
あんまり舞い上がりすぎると、手痛いしっぺ返しがとんでくる気がする。謙虚にいこう。
『左側のドアが開きます。ドアから手を離してお待ちください。』
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