025 控室
「ふえーっ…やばかった。」
控室に移動し、しばしの
空いているイスを見つけたので、とりあえず腰を下ろす。音楽でも聴こうスマホは持っているが、イヤホンを忘れてしまった。荷物は俊に預けているし、わざわざ取りに行くのも面倒。
―――まあ、座って待つか。
「あの…すみません。そこの飲み物、とってもらえませんか?」
女性から声をかけられた。視線の先にはペットボトルが数本並べられている。「ご自由におとりください」と書いてあるので、俺も一本もらっておこう。というか、テーブルの前に座っていたので、完全に邪魔をしていた。これは申し訳ない。
「あっ!…すみません。どうぞ。」
「ありがとうございます。」
女性はそのまま部屋を後にする。どうやら試合順が回ってきたらしい。決勝ステージのスケジュールを確認すると…。
―――えーっと…カナ選手か…。えっ、前回優勝者!?
■
「おーい、
「どうしたん?って、入れば良いのに。」
重すぎる腰をあげて、入口へと歩を進める。
「いや…あんまりうるさくすると悪いかな…と思って。」
「うるさくするつもりやったんかい。」
定型文だとわかってはいるが、軽くツッコミを入れつつ廊下に出る。俊の表情が結構真剣なので、おそらく真面目な話なのだろう。
「それで、何かあったの?」
まさかイヤホンを忘れたことに気づいて届けてくれた、なんてことはないと思う。カバンの奥底に眠っているはずだし、受け渡しくらいならばうるさくなることもない。
「いや…決勝戦の相手なんだけどさ…。」
まだ準決勝が残っているというのに、ずいぶんと気の早い話がはじまった。まあ、優勝するためには決勝を戦わなければならないわけで、備えるにこしたことはない。
「多分というか、ほぼ間違いなく大樹とカナさんっていう人のカードになると思う。」
「ああ、前回優勝した人ね。さっき会ったよ。」
俺が座る場所をミスって、ペットボトルをとる邪魔をしてしまった。全く気づいていなかったとはいえ、申し訳ない。
「うん。ここ数年日本人トップに君臨している選手で、プロゲーマーさん。世界大会でもベスト4まで駒を進めた猛者。」
想像以上の人だった。FPSが日本のゲームとはいえ、世界大会で活躍できるレベルとなると、かなりすごい。世界大会の出場枠は8つ。つまり世界大会ベスト4というのは、世界大会で1勝したことを意味している。…今更知ってもどうしようもない情報なのだが、知らせてくれてありがとう。
「本来はコンボ主体の戦術らしいんだけど、さっきの試合で…あ、まずはベスト4進出おめでとう。それで、大樹がゲンさんのコンボを全部止めたじゃん。」
「うん。まあ、結構危なかったんだけど。特に最後。」
見栄をはっても仕方がないので、正直に話す。最後は本当に危なかった。コンボ主体の戦術は、一度とらえられると受けが難しい。カウンターといえど、その実は回避と通常攻撃に過ぎない。回避できないと、何も始まらないのだ。
「おそらく戦術を変えてくると思うんだよね。世界大会のときと、今日のカナさん、戦術全く違うし。」
普通ならば「こちらの土俵に引き込んだぜ、やったぁ。」となるところだが、カナさん相手ではそうも言っていられないよう。全国大会のレベルで戦術の変更がきくとは…。
「まあ、大樹なら大丈夫だと思うけど、とりあえず伝えとく。見たこともない戦法を使われるかもしれんし。」
「ご
世界大会の会場、昨日の開会式で発表された。南の海に浮かぶ島国。リゾート地として有名で、海が透き通っていてとってもきれい。以前、サーフィンの大会も開かれていたはずなので、おっちゃんにとっては最高の場所だろう。
なんで妙に詳しいかというと、実は母の出張先なのだ。
―――母さんと会うの…久しぶりだな。
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