第二章 ゲームの世界へ

021 衣装

いよいよ全国大会の日がやってきた。


今日は、しゅんが用意してくれた衣装に身を包んでいる。格好良い模様が入った黒地のパーカーだ。ブランド物らしく、値段を聞いたときはひっくり返りそうになった。



―――まーじで朝から心臓に悪い…。



一般的にはスポンサーロゴなんかを衣装に入れるそうだが、俊は顔出しをしていない動画投稿者。身元につながるような情報は出せない。そんなこんなで、俺はシュンカンゲームズ専属のFPS解説者という役を拝命はいめいした。格好良い肩書きをもらっているが、要するに、俺の試合の解説をする、それだけ。


実は運営さんと俺が会談したあの日、実は一つお願いをしておいた。



――――――シュンカンゲームズでのコンテンツ収益化の承認。



紆余曲折うよきょくせつあったらしいが、俊が所属する事務所とインテグラル社の間で、無事に話がまとまったそう。使用料の支払いは必要らしいが、それでも商用利用が許可されたのだ。



「よーし、ではでは。ダイキ先生、軽く優勝お願いしまっせー!」



「いや…軽くとか無理だから…。」



強引なスポンサー様をなだめつつ、会場へと向かう。FPSゲーム全国大会の出場者は、128名。試合はトーナメント形式で進み、優勝賞金は3桁万円。そして…。



「これで優勝すれば…世界大会!大樹だいき、頼んだ。俺は…サーフィンがしたい!」



もう一人のスポンサー様は、海外旅行がしたいらしい。お世話になっているとはいえ、何だろう、このに落ちない感覚。





ありがたいことに、全国大会は2日間にわけて行われる。1日目はベスト8までの4試合が予定されており、それ以降の試合は翌日2日目となる。まずはベスト8まで勝ち進まないと、明日の予定が消えてしまうのだ。世知辛せちがらい。



「あ、ほら!動画の人だよ。ダイキ先生だ!」



「あの…サインしていただいても良いですか?」



人生初のサイン。しかも同年代の女性。とどめにかわいらしいときた。いろいろな緊張感がないまぜ状態。



「あ、はい…えっと…?」



「ゆみです。」



「ゆみさんへ…と。はい。どうぞ。」



すごく無理をして紳士的しんしてきな態度を貫いた。俊にはバレバレだったようで、後にものすごくいじられた。



―――でも…俺、彼女いないんだから…別に声をかけても良いんだよね。



まさかFPSの全国大会に来て、こんなことを考えるとは夢にも思わなかった。


そんな緊張感を爆上げした事件はともかく、試合開始まで、まだ少しある。エントリーも済ませたし、トイレの場所でも確認しておこう。初めて来た場所では、とにかくあせる要素を減らすことが重要。高校入試のとき、教室の場所がわからなくて本当に焦った。あのときの胸の鼓動、今でも忘れられない。

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