020 談笑

「やっぱりカウンター弱体化かぁ。」



昨日の報告も兼ねて、俊のお家で談笑中。テーブルの上にはポテトチップスとチョコレートが並んでいる。とりあえず、チョコレートを一つ口に放り込む。



「うん。…あ、飲み込んじゃった…。まあ、仕方ないよね。カウンター禁止とかにならなかっただけ、まだよかったかな。」



カウンターしかない俺にとって、カウンターは生命線なのだ。唯一の武器を弱体化されてしまった点はマイナスだが、結局のところ、ダメージを受けなければ良いこと。制限時間内に決着がつかなかった場合、体力ゲージの多い方が勝ち。こちらは100パーセント残せるのだから、一撃当てて、あとは回避でも問題ないわけで。



「いつ公表されるん?」



「もう出てるんじゃないかな?さっき、連絡が来たし。」



まだ公開されていないことをペラペラと話すほど、口が軽いわけではない。電話口でインテグラルの坂崎さかざきさんに確認もとっている。



「あ、本当だ。うわ…1.5から1.1に下げる…文字で見ると余計にえげつなく感じる…。」



「でしょ?俺も書類もらったとき、結構ショックだったもん。技使わないから、ただでさえ平均よりも長くかかるのに…。」



不満があるとすれば、そこ。今まで以上に一試合が長くなってしまう。いくら反応チートの俺でも、集中力に限界はある。連戦なんて大会くらいでしかないから良いものの、決勝戦にたどり着くころにはボロボロな気がする。何かリフレッシュできる方法を模索しなければ。



大樹だいきのことも出てるじゃん。ほれ。」



しゅんのスマホには、「地方大会におけるプレイングについて」と記された文章が表示されていた。これが例の公表文だ。個人情報保護の関係で、俺の名前や反応チートについては伏せられている。



「えーっと…なになに。



先日開催されました地方大会において、過去に例をみないプレイングスタイルが確認されました。この件につきまして、運営として調査いたしましたところ、当該プレイングは正規の手法によるものであり、何ら問題のない行為であることを確認いたしました。その上で、現状のゲームバランスをかんがみ、当該プレイヤー様の同意を得て、別紙のとおり補正数値を変更することといたしました。誠に勝手ではございますが、ご理解たまわりますようお願い申し上げます。



ふーん。過去に例をみない…ふふ。ということは、大樹のカウンターって純粋にやばいんだね…。」



苦笑いしか出てこない。そう、純粋にやばいのだ。何せ「反応チート」だもん。



今更だが「チート」という言葉、不正という本来の意味で使っているわけではない。常識を超えるほどすごい…的な意味で使っている。うまく表せる言葉の持ち合わせがなかったので、大好きなアニメの言葉から拝借はいしゃくしている。



「そのことなんだけどさ…俺、やばいらしい。」



さすがに細かい数値まで言うつもりはないが、俊にならばある程度伝えても良いだろう。俊にまで予測しているなどと誤解されてしまっては、たまったものではない。



「へ?何が?」



「なんか、反応速度がやばいんだって。チート級に。」



「…うん、知ってた。知ってたっていうか…気づいてた。」



予想外の反応。もっと驚いてもらえると思っていた。



「えっ!?知ってたの!?」



「いや、むしろ大樹自身、気づいてなかったの!?あんなカウンター、普通できるわけないでしょ!?…あ…普通、ってのは良くないか…ごめん。」



「た…確かに…。」



よく考えてみれば、おっちゃんのゲームセンターで樹立した連勝記録、あれも反応チートのなせるわざだったのだ。最初のころは、何でみんなカウンター使わないんだろう、なんてピュアな疑問を抱いていた。何だかあの頃が懐かしい。



「まあ、とにかく。大樹にはゲームの才能があるってことじゃん。前も言ったけど、今、ゲームの世界でもプロになる人たちがいて、ゲームで生計をたてられる人もいるんだ。一握りだけど。大樹、ゲームの世界もありなんじゃない?」



「プロゲーマー…か…。」



悲しきかな、将来のゆめは現在、白紙状態。こう、やりたいことが何も見つかっていなかった。そんななかで見えてきた一つの可能性。どこまでできるかはわからないが、突っ走ってみるのも悪くないか。



「まあ、厳しい世界だとは思うよ。でも…せっかくだから、ちょっとやってみたら?大樹の成績なら、勉強の方は大丈夫だろうし。あ、スポンサーは任せて!」



俊の言う通りかもしれない。せっかくここまで来れたのだ。中学生のころに部活の県大会は経験している。まあ、個人ではなく団体での出場だったけれど。いずれにせよ、全国大会までいった経験はないわけで、これが初めて。どこまでできるか、試してみるのも悪くない。



「あはは…ありがと。ちょっと真面目に考えてみようかな?」



その夜、さすがに父さんに相談した。返ってきた答えは「やってみなさい」の一言。こうしてなんちゃってプロゲーマーから、へとランクアップすることとなった。ちなみに初めてのスポンサーは俊。東のおっちゃんもスポンサーについてくれた。



―――走り切ってみよう。どこまで行けるか…楽しみだな。

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