019 沈黙

「…3フレーム?」



「私もいまだに信じられませんが…香坂こうさか様は3フレーム、0.05秒の世界に反応できるということのようです。」



なんということでしょう。



「これは…想像以上というか、なんというか…。」



社長さん、頭を抱えてしまった。数秒の沈黙。0.05秒の世界を感じる俺にとっては、長すぎる静寂せいじゃく



「…FPSに搭載とうさいされているすべての技は、カウンターの対象です。あくまでもプログラム上のお話ですが…。」



「それじゃあ、ダイキ先生にはカウンター不可の技も通用しないと?」



「はい、社長。カウンター不可とされている技は、要求フレーム数が5です。一般…と申し上げると語弊ごへいがありますね…多くのプレイヤーは反応できる速度ではありません。ただ、香坂様はさきほど申し上げた通り、3フレームですので…。」



カウンターできてしまう。遠井とおいさんの話によると、春霞一閃しゅんかいっせんはカウンター不可の代名詞的存在なのだそう。カウンター不可と明示されているわけではないが、ここに分類される技はいくつかあるらしい。



「それじゃあ…大樹には、誰もかなわないってこと…。すごいじゃないか!大樹!」



おっちゃんがとっても嬉しそうだ。肝心かんじんの俺はというと、なんというか、実感がわかない。反応速度がヤバいということはわかったのだが、嬉しいとかそういったポジティブな感情がまだ訪れない。事実を認識している段階。



「あ、あははは。…えっ…えぇーっ!俺が、0.05秒で反応!?ど、どんな攻撃でもカウンターできるんですかっ!?」



まさか、俺に「反応チート」が備わっていたとは。


ようやく情報の処理が終わったようで、感情の波が押し寄せてきた。結果、自分でも信じられないような大声を出してしまった。



「…あ…すみません…。」



「いや、これは驚くべきこと…。もちろん、我々がこの事実を公表することは絶対にないですし、ダイキ先生の反応速度をかんがみて現状の設定を変更することもありません。このことはインテグラル社長としてお約束します。」



確かにセンシティブな個人情報ではあるので、その配慮はありがたい。



「よろしくお願いします。」



「ただ…これだけネット上で議論が盛り上がっておりますので、一応、公式としての見解を出させていただきたいのですが…。事前にお見せいたしますので、確認の方をよろしくお願いします。」



こればかりは仕方がない。今はポジティブな評価がほとんどのようだが、俺が実際に全国大会で優勝するようなことがあると、ネガティブな反応が増えてくるかもしれない。俺だって後ろ指をさされるのはごめんだし、変なうわさをたてられるのも困る。運営として対応してもらえるのならば、お任せしたい。



「わかりました、よろしくお願いします。」



「いやー、こんなにすごいプレイヤーさんに遊んでもらえるとは…。ダイキ先生でも楽しめるコンテンツを最速で開発しますから、楽しみにお待ちください!」



社長さん、スイッチが入ったらしい。ゲームの可能性は無限大だ。きっととんでもないコンテンツが導入されることだろう。ユーザーのひとりとして、楽しみに待っていよう。



「まずは新技の開発からだな…うん。開発部の方で、調整中の新技が…。あ、これは失礼。では、このあたりで…。本日は、本当にありがとうございました。」



そんなこんなで会談は無事(?)に終了した。薄々感じてはいたものの、突然現れた衝撃の事実。困った、今夜は眠れないかもしれない。



―――じゃ、じゃあ、俺、全国大会で本当に優勝しちゃったりして…。



捕らぬたぬきの皮算用から、掌中しょうちゅうにランクアップ。あとはつかむことができるかどうか。





「あの…大樹。申し訳ないんだけど…おっちゃんとFPSやってくれないかい?いや、1回で良いから!あのカウンター、受けてみたい…。」



「良いですよ。あ…。」



財布を持ってきていなかった。



「ん?あ、お金かい?大丈夫、おっちゃんが出す。」



こうして俺とおっちゃんの戦いが幕を開けた。ちなみにこの戦い、半年以上続くことになるとは、このとき、知るよしもなかった。

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