第2話

 それから、鵜飼先生はトイレに駆け込んだらしく、ゲーゲー吐いていた。

 何があったかと聞くと、彼女は答えなかった。

「少女が怖い」

 そう言っただけだった。

 そして、園児が次々に部屋に入ってくる頃には、早退していった。

 園児も、私の背後にいる少女の事を不思議がっていた。

 しかし、私からは、少女なんぞ居ないようにしか見えない。

 子供は霊感が強いとか聞いた事があるが、そのせいだろうか?

 とにかく、何事もなく一日が終わった。

 この日以降、夜中にピンポンは鳴らなくなった。

 その代わりに、私の周りの人達がおかしくなった。

 次の日。ある女子園児が血を吐いて倒れた。

 医者でもない私には理由なんて分からない。

 だが、その女子園児には疾患なんてものは無縁だったはずだ。

 何かがおかしい。

 血を吐いた女子園児は、酷く痙攣を起こし只管に鮮血を吐き続けた。

 その風景を心做しか心地よいと思ってしまった自分がいる。そんな事は不謹慎以前に、保育士として失格だろう。

 しかし、そんな事は気にしない。

 もっと吐け。と心から願っている。

 そんな事が自分の本心なんて信じたくないが、現実はそうだ。

 他の先生は私を問い詰めた。

「何故苦しがっているのに、ニヤニヤ笑って居たのですか?」

 と。

 私は、答えた。

「え? 面白いから」

 空気が凍るというのはこの事か、と思った。

 信じがたい現象を見るような目つきで私を凝視した。

「信じられない」

 そういった先生も居た。

「そういえば、朝。鵜飼先生が早退したのも佐藤先生の仕業ですか?」

「それは知らない」

 私は否定する。

「いや、そうだ!」

 誰かがヒステリックに叫ぶ。

 しかし、その人が次に叫ぶとき、出てきたのは声ではなく血反吐。

 職員室中に響き渡る悲鳴。

 その人はそのまま救急車で運ばれ息を引き取った。

 女子園児と同様に。

 次の日、私は警察署に居た。

 警察は、殺人事件と見て捜査を始めているそうだ。

 しかし、二人の死因は大量出血以外に見当たらなく、彼女らに触った形跡も飲ませた形跡も無い。

 何もしていないのだ。

 ただその場所に居合わせただけ。

 そう判断され、私は警察署を後にした。

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3月3日 生焼け海鵜 @gazou_umiu

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