恋愛の25 恋
ならば、神様の言う前兆とは、僕の質問の全てに応えてくれている筈だ。僕の抱いた不安は、きっと的中している。だからそれを信じて、言葉を口にした。
「女王様、実は今回の旅で、モアナのひまわり畑の
「ほ、本当か!?」
聞いて、地面を踏みしめて確かめる。そして、一瞬だがやはり、そこに僕の右足は
「はい。ですので、一緒に行きませんか?渡航の為のチケットは、既に手配してあります」
「またそうやって。……私は、お前が魔法を使っていない事を信じられなくなってきた」
「読心魔法を使える人間の身長が、あなたより高いわけがないでしょう?」
「……そうだな。いや、分かってはいるのだ」
すると、女王様はとうとう僕を視界から外すように、振り返ってため息を吐いた。そんな頼りない姿を見ると、僕は彼女をどうしても慰めたくなってしまった。
「女王様、国庫の中身は見て頂けましたでしょうか」
「あぁ。正直、驚いたぞ。まったく、どうやってあんな金額を稼いだというのだ」
「ありがとうございます。しかし、全て偶然と成り行きですよ」
「……何か、褒美を取らせてやらねばなるまいな」
その時、彼女は一瞬だけ、僕の顔を見た。
「ならば、たった五分でいいです。僕の無礼を、見逃して下さい」
「無礼だと、……っ!?」
そして、僕は彼女の言葉が終わる前に、その細い体を強く抱きしめた。
「な、な……何をすりゅのだ!」
肩を包むように腕を回すと、背中越しに女王様の心臓の音が、僕にも伝わってくる。それを落ち着かせるように「今だけです」と囁くと、彼女は体を固く緊張させて大きく息を吸い込んだ。
「何故、わざわざ朝に来ていたんですか?是非、教えてください」
「それは……」
僕は、自分の性格が最低だと思っている。優しい人間であれば、こんな時何も言わずに居てあげる筈だ。しかし、僕は自分の好きな女性のかわいい部分を、全て知りたい。だから、こうして劣情を
答えあぐねている女王様に、もう一度だけ「何故ですか?」と訊くと、とうとう頭がこんがらがってしまったようで、拗ねるように小さく気持ちを話した。
「と、トモエが悪いのだぞ。あれだけ愛していると言いながら、旅に出ればずっと連絡も寄越さないで。そんなの、ズルいではないか……」
女王様は、僕が魔法を使えないのだから、この世界の端末を使えない事など知っている。それなのに、悪いと理由を押し付けて、しかし僕の手を振り払わなかった。
つまり、彼女は僕を迎える為に、朝に帰ると知っていて店番を引き受けていたのだ。
「心配して、くれてたんですね。ありがとうございます」
そう言って、彼女の頭を撫でた。すると、手を頭から離すたびに、ひまわりの香りが舞った。
「……知らなかったのだ。誰かが無事に帰ってくる事が、こんなにも安心することだったなんて。だって、私から離れて行く人は、誰も……っ」
か細い口調に、張り続けてきた意地が
鉄血、憎悪、男嫌い。そんなモノは、全て生まれ持った訳ではない。女王様は運が悪くて、そんな事を考えてしまう環境に身を置いてしまった。もし、ほんの少しでも時代が違えば、父や兄にも甘えることが出来ただろう。それなのに、彼女は芽生えた恨みの感情すらも、誰にも向ける事が出来なくて。
そして、僕が居る事を知らなかった。過ちは、ただそれだけだ。
「今まで、よく頑張りましたね」
「……うん。私……っ」
抱きしめる僕の肩は、うっすらと透けている。
「一緒に、ひまわりを見に行きましょう。海も、シャーロット様の面影も、そこにあります」
「……私、そこへ行ったら、きっともう戻れない」
「ならば、辿り着いた場所で、新しい方法を一緒に考えましょう。大丈夫、女王様なら出来ますよ」
「そんなの、分からないじゃない……か」
とってつけたように、語尾に力を加える。その時、遠くに人が歩くのが見えたから、僕は彼女から離れて跪いた。肩は、元に戻っている。
「あ……っ」
「約束の五分です、女王様。ありがとうございました」
言うと、女王様は僕の姿を数舜だけ見て、足早に店の中へと入っていった。その後を追うと、狭い路地に僕が使っている椅子を引いて、そこに座って膝に手をつく。
「……二時間だ。そうすれば、迎えの兵が来る。それまでは、ここに居るからな」
「仰せのままに」
しかし、やはり客足は
「掃除、終わりました。しばらくは、このまま落ち着いているでしょうね」
「う、うむ。そうだな」
女王様は、椅子に座ったまま僕の事を見上げていた。ひまわりを見に行くことを問い詰めないからか、しきりに瞬きをして、手元にあったアクセサリーを手に持つと、誤魔化すようにそれを見た。
「……プリモネから、何を聞いたのだ」
きっと、僕を馬に乗せた時から、ずっと気になっていたのだろう。
「この国の歴史の事です」
「やはり、そうか。あの老婆め、本当に余計な事を」
「しかし、女王様。僕がプリモネ様を尋ねる事は、あの時既に分かっていた筈です。何故、口止めをなさらなかったのでしょうか」
「本当に、意地の悪い男だ。……私には、分からないよ。しかし、お前はどうせその理由を分かっているのだろう?」
いつの間にか、アクセサリーを棚に戻して、腕を抱いていた。その仕草に、答えを求めているのが分かったから。
「女王様の、想像通りですよ」
僕は、僕の知る、最も卑怯な言葉を言って笑いかけた。
「……ですので、聞かせて頂けませんか?今度は、女王様自身の話を。どうして、ここに至ったのかを」
言って、言葉を待つ。やがて、彼女は自分の中の何かを諦めたかのようにため息を吐くと、ゆっくりと口を開いたのだった。
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