恋愛の6 存在価値

 × × ×



「……して、真々木巴。お前の言う異世界とはどこにあるのだ」



 翌日の夜、僕は約束通りアガルタの城へ来ていた。

 来賓扱いされるとは思っていなかったけど、まさか手錠までかけれられるとは思っていなかった。この広い部屋の中には、僕と、女王様と、ゼノビアさんを含めた警護の五人。一応情けの為なのか、紅茶の淹れられたティーカップだけが、唯一刑務所の面会場とは異なる点だ。



 女王様は、昨日と同じように話の核心から会話を始めた。しかし、昨日のように怒っている様子ではないから、ひょっとすると元々交渉があまり得意ではないのかもしれない。



「どこ、と言う具体的な場所は分かりません。僕も、この世界に来るまでは漠然と『存在している場所で生きている』、としか考えていませんでしたから」



 そして、宇宙や地球と言ったある種概念的な場所の事、魔法ではなく、科学と言う別の技術を発展させて進化を遂げた事、人種族には純粋なヒューマンしかいない事など。僕の知る限りの前の世界の在り方の全てを話した。



「なるほど、エネルギーや生物の差異はあれど、大まかな構成自体は大して変わっていないのだな。お前の話が本当ならば、宇宙の外側に更に空間があって、そこに惑星のように世界が存在している、と考えるのが自然だろう」

「しかし、そう簡単に互いに干渉する方法は無いはずです。現に、僕の住んでいた世界でも、歴史上に異世界間を行き来していた、なんて人物は存在していませんでした」

「それはこちらも同様だ。ならば、何を持って証拠とするつもりだ?」

「僕の体には、魔菅がありません。解剖すれば、きっと分かるはずです」



 魔菅とは、この世界の全ての生物に内臓されている、心臓から魔力を全身へ送る為の、血管に続く第二の器官だ。因みに、この生まれ持った魔菅の太さによって魔法の才能は決定づけられるらしい。



「解剖などせずとも、クリアスフィアに触れれば分かる。誰か、持って来てくれ」

「サロメ様、ここに」



 すると、既に用意していたのかゼノビアさんが部屋の隅から人の頭程の丸い水晶を取り出して、僕の目の前に置いた。



「これは?」

「古典的な魔力の確認装置だ。触れて見ろ」



 促され、僕はクリアスフィアに触れた。しかし、当然の事ながら一切の反応はない。



「驚いた、まさか本当に」

「……信じざるを得ないようだな」



 ようやく僕の話に信ぴょう性が生まれたのか、警護の兵たちもひそひそと話をしていた。「夜の灯りや料理の火はどうしているのか」という事だけど、それは単純な話で、テレサさんに貰った火を絶やさないようにしているだけだ。



「しかし、ならばどうやって人々は争うのだ?魔力が無ければ、銃も撃てないだろう」



 あのマスケット銃は、そう言う仕組みだったのか。



「火薬と呼ばれる物質があります。着火する事で、弾丸を飛ばすエネルギーを産むのです」

「なんだか、心もとない方法だな」

「その代わり、誰でも同じ威力で扱えます。撃った事は無いですが、人を一人貫く程度の力はあるみたいですよ」

「撃った事がない?お前、戦争に出た事はないのか?」



 反応したのは、ゼノビアさんだった。



「ありません。地球のどこかで戦争はありましたが、僕の住む日本は75年間戦争をしていませんでした」



 今度は、日本は平和である事、兵士とは他に警察がいる事、現代戦で使われている兵器など、その他国家に関する機関についての話をした。



「お前は、政府の人間だったのか?」

「いえ、僕はただの営業サラリーマンでした。知りたいと思えば、誰でも好きな情報を知ることが出来る。日本とは、そういう国です」

「そうか。本当に平和な国なのだな。ならば、残してきた家族は?お前が居なくなって、母親も心配している事だろう」

「いいえ、僕に家族はいません。10年程前、日本を大きな地震が襲い、両親も妹も恋人も、みんな死んでしまいました」

「……そうか」



 あの日も、この世界に来た時のような絶望感に打ちひしがれたのを覚えている。



「お心遣い、痛み入ります。しかし、それは女王様も同じでしょう。だから、あなたのお気持ちはよく分かるのです」



 会話を始めて数時間、初めて沈黙が訪れた。僕は乾いた唇を濡らす為、ようやく目の前のティーカップへ口をつけた。冷めているが、渋さのない透き通った味だ。色も、光るオレンジで美しい。



「いいお茶ですね、これはクレオの物ですか?」

「そうだ。ブルーサファイア・ガーデンで栽培している。クレオの特産品だ」



 ブルーサファイア・ガーデンは、クレオの北部に位置する農業区域だ。この国の食料は、主にそこで調達されている。



「これは、輸出はしているのですか?」

「いいや、門外不出だ。本来であれば、お前のような男の口に入れてよい物ではない」



 言われ、一つの閃きがあった。



「女王様、この紅茶を輸出しませんか?」

「何?お前は今の話を聞いていなかったのか?」

「聞いていました。しかし女王様、恐れながらここで一つ、僕の知る話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「いいだろう、喋ってみろ」



 話していて分かったことがある。それは、女王様は決して感情論で物を考えない、という事だ。

 もしも、僕がシャンプーの仕入先について話していれば告白した瞬間に打ち首になっていただろうし、今だって彼女の知らない世界を話したお陰で発言権を与えられているんだと思う。

 しかし、納得させる事と好きになってもらう事には大きな差がある。ただの便利屋にならないように、慎重に言葉を選ぶ必要があるはずだ。

 そして、そこにこそ突破口がある。こじ開ける為の武器は、果たしてどこにあるのだろうか。


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