第2話 私とワタルくん

今日、クラスの男の子に告白されちゃった。薬師寺やくしじワタルくん。三年間同じクラスでいつも一つ前の席に座ってる薬師寺くん。

5時間目の授業が終わって帰る準備をしてたら、急に振り返って


「ゆ、幸平ゆきひらさん!俺、その、えっと、幸平さんのこといいな……って。その好き……だなって」


なんて言い出すんだもん。びっくりしたよ。

好きって好きー!ってことだよね。でも、どこが好きなのか気になったから聞いてみたら

「なんというか、全体的にかわいいというか。笑った顔とか元気なその声とか。あと、そのポニテみたいな子犬の尻尾とか」

とか言うんだよ?あんまり髪が伸びなくて尻尾みたいになっちゃってるの気にしてるのに。

「かわいいから好きなの?」

「む、難しいことを聞くね。もちろんそうなんだけど、ちょっと違うのかな……。好きだからかわいい、みたいな?」

「なにそれ、どういうこと?」

「つ、つまり!その、彼女になってくれたらな、というか、その、彼女になってくだしゃい」

噛んだ。今、薬師寺くん噛んだよね。私はおかしくて笑っちゃった。

告白されるのは初めてだし、恋愛に興味がないわけでもないし。

「うーん、そうだなぁ。じゃあ、じょーけんがあります!」

「じょ、条件?」

「うん、じょーけん!えっとね……」

言い出したのはいいけど、どうしよう。何も考えてなかった。

薬師寺くんは顔をまっかっかにしてゴックンって唾を飲み込んでるし、

早くじょーけんを出さないとだよね。

そうだ。

「私をずっと好きでいてくれる、ってヤクソクしてください」

「え、約束?ずっと好きで……?」

「そう、ずぅーっと好きでいてくれる?」

どうせ付き合うならずっと一緒にいたいし、薬師寺くんのことをもっと知りたいから。どんなテレビが好きなんだろうとか、どんな音楽を聞くんだろうとか。

もちろん、私のことも知ってもらわないとね。ふこーへー?だっけ、そんな感じ。

「……そくします」

「ん?聞こえなかったよぉ」

「や、約束、しゅましゅ」

今度は二回噛んだ。

「しゅましゅ……マシュマロみたいでかわいいねぇ」

「ち、ちがわい!!」

私はちょっとイジワルを言って、お腹を抱えて笑っちゃった。

薬師寺くんって意外とかわいいのかな、なんて新発見だった。いつもは本を読んでいるか、お空をぼーっと見てたり、ちょっと何を考えてるか分からなかったから。

そんな薬師寺くんが彼氏かぁ。あ、そうだ!

「ははは……うん、じゃあ今日からよろしくね!ワタルくんっ」

「……へ?え、えっと」

「どうしたの?ワタルくん、今日からよろしくねぇ」

「あ、あはは、はは、は」

え!え!ワタルくんが泣いちゃった。どうしよう。

ハンカチ、ハンカチ。私はポッケからベア太郎のハンカチを取り出してワタルくんに渡した。

「ワタルくん、だいじょーぶ?」

「う、うん。その、嬉しくて嬉しくて」

「えへへー、それだけよろこんでくれると私もうれしーよぉ。ほらほら、泣かない泣かない」

ワタルくんの頭をなでなでしてみた。短めの髪の毛がチクチクしてて、ちょっとくすぐったい。ワンちゃんを撫でてるみたいでかわいいなぁ、って思った。

ぼせーほんのー?って言うんだっけ、こういうの。

「はい、もう泣かない!あと、私のことはミサって呼んでね。」

「……うん。分かった。み、ミサ?」

「なんではてな付いてるの?幸平ってなんだか男の子みたいだし、ミサって名前好きなの!あと、彼女だし」

自分で言って少し恥ずかしくなった。彼女かぁ。

で、ワタルくんが私の彼氏でカップルなのかぁ。これから楽しみだなぁ、なんて考えてたら

「あ、はい!わかりました!み、ミサ…よろしくお願いしましゅ!!」

また噛んだ。こーいうのてんどんって言うんだっけ。

やっぱりワタルくん、かわいいところあるなぁ。またお腹を抱えて笑っちゃった。

うん、ワタルくんといると楽しいなぁ。卒業までの数カ月も楽しくなりそうだ。わくわくしちゃうなぁ。

あ、そうだ。

「よろしくね。そういえばワタルくんって高校どこ行くの?」

「……北川」

「え!北川高校?私もなんだよぉ!」

おんなじ高校だった。すごいなぁ、これは運命を感じちゃうね。

なんだかまたワタルくんの顔がまっかっかになってた。なんでだろうね。わかんないや。

でも、同じ高校なら一緒に通えるのかな。毎日がデートみたいで考えただけでも楽しくなっちゃた。

「じゃあさ、じゃあさ、来週の卒業旅行いっしょに周ろーよ!遊園地!」

「え、あ、うん!よろしく」

あらら、今度は噛まなかったねぇ。これ以上噛んだらベロなくなっちゃうか。それは可愛そうだねぇ。

来週は卒業前のイベントで三年生は遊園地に行くんだけど、タイミングが良いなぁ。もしや、狙ったなぁ。

「じゃあ、帰ろっか!」

「…え」

ちょっと強引だったかな。ワタルくんの手を握ったら汗でビチョビチョだった。緊張してたんだね、いっぱい噛んでたからね。


駅まで歩いている途中に聞いたけど、降りる駅は一緒みたい。

改札からは逆方向なのはちょっとおしかったなぁ。

「じゃあ、私こっち!」

「…うん、俺はこっち。ハンカチ、洗って返すね」

「はーい、ありがとー。じゃあねー」

ブンブンって手を振って、ワタルくんが歩いていくのを見てた。転ばないかなぁ、ってちょっと心配になったけど私もお家へ歩きだした。



来週の遊園地、楽しみだなぁ。

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