第2話
どんな仕事でも、国王陛下に直接報告をしなければならない。
これは今の王が取り決めた事だ。
どんな小さな仕事も敬意をもって、本人の口から日々の仕事を聞く事もまた仕事。というお心のもとである。
それ故か、現国王の支持率は高い。国民全員が、今の政治状態に不満を一切持っていない。
部屋を出てすぐ帽子をかぶる。傍に居た大男は、快活な笑顔を向けながら猟銃を渡してくれた。
「しかし、そんなひょろっこいのに猟師なんだな。機会があれば俺にも教えてほしいものだよ」
「いえいえ、僕なんてまだまだですよ」
陛下と同じ言葉を返して、僕は城の出口を目指す。
世界にはまだ魔法が生きているが、“生あるモノ”から命を奪う行為を禁止することは、どの国でも暗黙の了解として知られている。
だから動物や植物は必ず人の手をかけて、しっかりと育てられ収穫される。
魔法で出来る範囲と言えば、無から有を生み出したり、形あるものの声を聞いたりするくらいだ。
それを活用して慎ましやかに生きることが、魔法を使役する者の美徳とされているらしい。
しかしヴェルデの魔術師は年々減少傾向にあり、今やほんの一握りしか魔法を使えるものしかいない。
だからといって決して貧しい訳ではない。安穏な生活を送る為、国民はせっせと働いている。
僕ら猟師の仕事は、狩った獲物を街へ卸したりする事が主だ。
宮廷付きになれば、十分すぎる対価の代わりに、依頼を受けた獲物を献上する仕事が与えられる。
来た時と同じ廊下を歩いていると、淡い青のドレスを着た女性が、中庭で空を眺めていた。
地平線に半分消えた夕日と、迫りくる夜の闇。この瞬間だけの見事なコントラストの中、女性はメイドに声をかけられ、こちらに向かって歩いてきた。
僕はそこでようやく気付いた。彼女がこの国の女王様であられる事に。
歩いている姿だけでも見て取れる、所作の優雅さ。お腹が大きく膨らんでおり、国中が待ち望んでいる命が、そこに居た。
僕と女王様がこんなに近くで顔を合わせるのは、これが初であった。
「あら、あなたは?」
「私は宮廷付きの猟師、キトラと申します。依頼された獣を献上しに参りました」
「それはご苦労様でした。いつもありがとう」
にこりと笑いかける。その仕草ですら、気品を伴っていた。感謝の言葉に、僕は一礼を返すことしかできなかった。
ここで何か一言添えられれば、もっと仕事が増えたかもしれない。もっと期待もかけてくれたかもしれない。
だが僕にそんな勇気もなく、彼女が過ぎ去っていく後ろ姿を、見えなくなるまで見送る事しかできなかった。
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