第13話 出陣
シャーリンという男について、ゴドウィンは何か、不穏な話を聞いたことがある、と話していた。確証はない、とも言っていたが、リディアはその話を聞いてみたいと思った。シャーリンという男の不気味さ……危険と言っていい気配、その理由に迫るものかもしれない。そう思ったからだ。
だが、ゴドウィンに再開することは出来ず、リディアが僅かな眠りから目を覚ますとすぐ、リグ家騎士団の出撃となった。
露払いとして、騎士団に先んじて砦を出た傭兵団は、昨夜の四班に分かれて、そのまま戦場を駆けた。ゴドウィンの立案した夜襲が効いて、イシス家騎士団は、明らかに後手に回る対応だった。無論、リグ家の出陣に備えていた兵力もあるので、リディアたち傭兵は、主にそれらに対応した。慌てている様子がある敵を斬ること自体は、難しくはない。リディアは背中に紅い剣を背負ったまま、腰の剣で戦った。覚悟を決めていた戦闘でも、相手を傷つけることには抵抗が残っていたが、それでもリディアはよく戦った。おそらく、命を奪いもしただろう。
「頃合いだ、坊主! 退くぞ!」
リディアのすぐそばで戦っていたミルダの叫ぶ声が聞こえた。敵の波は途切れておらず、寧ろおそらく、陣での物事に対応していた部隊が出てくる頃合いに思えた。
「『閣下』の言葉を思い出せ。引き際を間違えるな。金のために死ぬなんつう馬鹿らしい真似はするな。後は騎士団同士が、死ぬまでやりゃあいい。自分たちの戦いなんだ。自分たちでケツ拭かせろ!」
そう怒鳴られるまで、あらゆる言葉が上手く耳に入って来なかったのは、戦いに精神が持っていかれていたからだろう。我に返ったリディアは、ミルダの背に続いて、戦場から撤退した。
「よくやった、傭兵ども! 後は我々が陣を蹴散らす! 行くぞ!」
リグ家の将が吠え、大きな石が転がる山肌を、騎兵が駆け下っていく。だが、それはどう見ても馬脚に無理があり、馬も人も、転げるようにただ進んでいるだけだった。
あの状態では戦えない。
リディアでさえ、そう思った。気づいていないのは騎士たちだけだろう。
山の裾野から、鬨の声が上がる。イシス家の四つの陣がある場所からだと、リディアはすぐに気づいた。山岳砦へと引き返しながら、振り返り見た光景には、四つの陣から、ようやく態勢を整え直したイシス家の本隊が、応戦に出てくる様子であった。
ゴドウィンの計画通り、リグ家騎士団とイシス家騎士団、両陣営の本隊同士が、ちゃんと激突した。
「あれでいい。自分たちが何をやってるのかを、ようやく知ることができるはずだ。まあ、知ったところで、死んじまうかもしれねえがな」
ガハハ、と笑うミルダの言葉を聞き、リディアはその光景に背を向けた。
山岳砦の入口はもう目の前にあった。
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