第56話 一年前、王都で
「おお。お前がギルバートか」
ホーデン。魔王軍の魔術研究の中枢。ギルバートを軍議へと引っ張り出した者だ。
「どうも…。貴方が俺を……」
「そうじゃァ。儂はお前に用がある。なあ、ゴブリン族の最後の生き残りよ」
「………!」
最後の生き残り。ホーデンは確かにそう言った。あの出来事を…知っているのか。
「ホーデン殿…もしかして貴方はゴブリンがどうやって滅んだのか…それについてご存じなのですか…?」
「ああ。
「………そうです。俺たちは、この石を掘り出したばかりに……」
ギルバートは、義手に嵌められた一欠片の石を見た。暗闇の中で仄かに紫の光を放っている。
「なんと……現物を持っておるか…。ならば話は早い。それを見せてくれんか」
「これを………?」
ギルバートは、歩み寄るホーデンに右腕を差し出した。ホーデンは、義手から魔核を取り外し、掌の上に乗せた。
「これは…まさに純粋な魔力の結晶体といってもいい……。ギルバート、これはお主の故郷から採れたものか?」
「はい。あの鉱山から……」
「やはりそうか。儂の仮説は…どうやら間違ってはいないようだ…」
ホーデンは魔核を握りしめたまま、会議に集う4匹の魔族たちに呼びかけた。
「転生勇者………。およそ人間とは思えぬ力で我々魔族を蹂躙するあやつらが現れたのは…いつ頃だったか覚えておるか?」
「ジジイ何を急に」
「貴様は黙っとれジギス。アルダシール、覚えておるか」
「くっ………クソジジイが………」
「そうだな……。あれは確か……1年ほど前の話か?」
「そうだ。1年前のある時を境にして、奴等は急にこの世界に現れた」
「何が言いたい?」
「今から1年前のこと。王都に何が起こったか覚えておるか?レドリック」
「王都に…?………!そういえば…聞いたことがある。少し前に王都では……いや…正確には人間の王宮では…政権が交代した…。エルメェルといったか…?それまで名前を聞いたこともないような小貴族が…突然宰相となったと…父上が」
「そうだ。エルメェル。名も無き貴族だったあやつが、名宰相セルマを蹴落とした。かの伝説の勇者の元で…『賢者』として名を馳せたほどの男を……」
「そのエルメェルとやらが……転生勇者の出現に関与していると……?」
「まあ…そういうことになるな、アルダシール。奴が宰相となった途端、奴の着任を祝うかのように、かの勇者どもが沸いて出てきた…。旧来の勇者…『伝説の勇者』と代わるようにして…」
ホーデンは突如として、魔核を振り上げた。
「そして転生勇者……!!奴等の存在には…儂の手に握られた、たった一欠片の石が関係している…!!エルメェル…!!ゴブリン狩りを煽動し…魔核を尽く奪い去ったあやつがある時を境に宰相へと上ったのも……『伝説の勇者』がこの世界から姿を消したのも……全てこの石の仕業だ……!!」
「ゴブリン狩りを………煽動だと……!?」
ギルバートは、顔を歪めた。エルメェル?そいつが、狩りを…?
「純粋なる魔力の塊…!この世界の歯車を狂わせたのは…こいつだ…!!ギルバート!!儂がお主をここに呼んだのは…他でもない…お主に王都の魔核研究所に潜入してもらうためだッッ!!エルメェルが魔核を使い……何をやったのか!!それを確かめさせるために、儂はお主を呼んだのだッッ!!」
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