第54話 新たなる始まり
「お前は流浪の身だったと聞く。諸国を遍歴して、ここに戻ってきたのだろう。王都の事情に詳しい魔族が、俺たちには今必要だ」
「魔王様の勅命……!?なぜ俺ごときに…」
「俺も他の魔族から申しつけられただけだ。魔王様から直接伝令を承ったわけではない。詳しい事情はわからないが、とにかくお前には一度城に来てもらう。出立の準備がある」
「待ってください!俺は魔王軍には所属していない流浪の魔族……そんな俺をなぜ貴方が…魔王様がご存知なのか……!?」
「お前はジギスに会ったろう。俺はお前のことを奴から聞いた。それだけだ。魔王様がなぜお前をご存じなのかはわからないが………とにかく急ぎの用事だ。ギルバート、レドリック」
アルダシールは、骸骨馬の後方を示した。二匹の魔族に、乗馬を促している。
「突然のことで事情が把握しきれないが…ギルバート、乗ろう。お前が、魔王軍に必要だそうだからな」
「レドリック…だが俺は」
「迷っている暇などないぞギルバート。流浪の魔族が、軍に属する良い機会だ。さあ」
レドリックに促されて、ギルバートはアルダシールの後方に乗った。レドリックもそれに続く。
骸骨馬は、三体の魔族を乗せても堪える様子は一向にない。剥き出しになった骨が、僅かに軋むだけである。
「……」
出発の直前。アルダシールはムントの墓を見て、小さな礼を捧げた。かつての戦友に向けて。
「用は終えた。行くぞ」
アルダシールの声に呼応して、骸骨馬が駆け始める。乾いた音が、風を切って進んでいく。
アルダシールは馬を駆りながら、後方を顧みた。
「レドリック。今回のことを忘れろとは言わない。だがお前はこれから、父親を継がなければならない。父の幻影を追いかける必要はない」
「将軍……」
「ギルバート。俺はお前のことはよく知らないが…あのジギスを説得したらしいな。どのような魔族か興味が沸いてな。ムントの眠る場所にいると聞いて、ここに来た」
「………俺はこの通り、ただの一魔族ですよ」
「そうだな。だが、ここに来る途中で、ある者から伝言を預かった。お前が必要だと、魔王様が仰っているとな。理由はわからないが、一魔族であるお前が求められていることも事実だ」
「………」
一通り話し終えると、アルダシールは馬の手綱をより強く握った。土を蹴る速度が上がる。
「魔王城はもうすぐだ。城に着き次第、お前たちには軍議に参加してもらう。……軍議といっても、お前たちを除いて参加するのは俺とジギス、他にあと一匹だけだがな。城に常駐している俺たちだけだ」
アルダシールは馬を駆る。骸骨の馬は、蹄を鳴らして疾走する。二匹の若い魔族は、高速で流れる景色に、これから始まる、激動の歴史を予感していた。
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