第45話 撹乱
「くッ………ああッッ……!!」
勇者の頭蓋に打ち込まれたのは鉄槌。風のように迅速。舞い降りて、叩き込まれた悪魔の拳。
激しい痛みに耐えかねて、勇者はその場にへたりこんだ。
「がァああああ!!」
思わず後頭部を押さえる。庇うように。しかし、痛みは構わず、勇者に訴えかけてくる。強く、激しく。何度も何度も。
「………」
ギルバート。ようやく、勇者に一撃。叩き込んだ一匹の魔族。強打を与えた反動が、右腕。鉄の義手に波となって伝わる。
痛撃に震える腕。確かな感覚を受けながら、ギルバートは勇者の前に立っていた。
「がッッ……!!お前ェ……!!何処から………!?」
混濁。いったい何処から?刃の牢獄から抜け出して、何処から襲いかかった?
勇者は、回顧した。痛みは、頭蓋に。がら空きだった頭蓋に。何故頭部は無防備に?それは……奴が…上空から襲いかかるゴブリンが…刃による攻撃から逃れたから。上空を覆った幾千の刃。その包囲を逃れ、何処かに身を隠したか……ら………?
「ッッ……!!」
僅かな違和感。ある場面に。
「まさか………お前は………」
刃の包囲。全方位からギルバートに襲いかかった刃。直後の激しい金属音。あの音は……果たして本当に…刃と刃が……ぶつかり合った音だったのか?ギルバートが、あの包囲から逃れたと言い切れるのか?奴は…ギルバートは…本当は………。
「『硬化』……解除………。」
刃の牢獄の中にいたのだ。
「そ………んな………僕の…思い違いに過ぎなかったのか………?お前が……刃の包囲から抜け出して…僕の裏をかいて……何処かから攻撃してくるという予想は………幻想でしかなかったのか…?!お前は…あの中にいたというのか……!『硬化』を使って……!!」
『硬化』による金属音の偽装。
魔力によって身体を硬質化させ、刃と激突した際に、金属のような音を身体から放つ。あたかも、刃どうしが衝突しあったような音を。
ギルバートに背を向けていた勇者の判断材料は、音のみ。金属どうしがぶつかり合う音から、ギルバートが刃の包囲から抜け出したということを判断した。
金属がぶつかり合う音は、ギルバートに襲いかかった刃と刃がぶつかり合う音。刃と刃がぶつかり合うということは、刃に取り囲まれたギルバートが、何らかの方法でその包囲から抜け出したということ。
「たかが………勘違いだと………?」
勇者は、状況を見誤っていた。
刃の牢獄から脱出したギルバートが、思わぬ方向から襲ってくることに備えた。
彼が上空から襲いかかってきた時のように、不意の急襲を予期して、軽くいなしてやるつもりだった。
しかし、それは皮算用に過ぎなかった。
勇者は、ギルバートの所在を上空以外に仮定していた。
地中か、側面か。
瞬時に移動し、思わぬ方向から急襲してくるギルバート。驚異的なそのスピードに対して、警戒心を持って臨んだ。
だが、その警戒心。読みを逆手に取られた。
ギルバートには、瞬間移動能力など無い。
全包囲を埋め尽くす刃から抜け出すことも、超スピードで、思わぬ方向から勇者の不意を突くことも出来ない。
全ては、勇者がギルバートの力を過大評価したために起こった事態であった。
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