第38話 風の拳
「あァ……?」
「貴様は勇者じゃない……。勇者の僣称者でしかないんだ…!!」
ギルバートは義手を握る、もう片方の腕に力を込めた。
「強ければ勇者なんじゃない…力があれば勇者なんじゃない…!ただそれだけの理由で…『勇者』になれる筈が無いんだ…!!」
「はぁ…。御大層な理論なことで。勇者に必要な資質なんて、力だけで十分だよ。倫理観や道徳心なんて…下らない感性だ…」
構えた剣が鈍く光る。勇者は歩みを止め、その場で身体を捻った。
「僕が勇者であることをお前が信じようが信じまいがどうでもいいけど、魔族ごときに舐められてるのが気にくわない…。さっきまで散々見せつけてやってた『勇者の証明』…。今から、脳髄にまで刻み付けてやるよ」
身体を捻った勇者。無機質な白い背中に不似合いな、仰々しい骨が浮き出る。暗い海の底から現れて水面に顔を出す鯨のように背中を波打たせ、大きく隆起した背骨がギルバートに笑いかける。
「魔剣…血蛞蝓…!『流動』…!!」
勇者の身体が何かに弾かれたように、強く跳ねる。
捻られた体制から巻き戻った身体。空を裂く剣。双方が唸って、旋風を巻き起こす。
「これが…勇者の力だよ」
勇者に押された空気が、重なりあう。次の空間、次の空間へと押し寄せる風の濁流がナイフのような切れ味を持って回転する。
「…風…か……」
睨んだ。迫る竜巻を。ギルバートは己の腕にみなぎる何かを感じた。同じ波長。流れる風の感覚。空を裂き、大地を薙いで、暴れまわりながら進む破壊の化身。その律動が、右の義手から伝わってくる。
「何の因果か…」
機械の義手。その手の甲に嵌めた一欠片の石が、一瞬の煌めきを放つ。ギルバートは石を撫でた。
「『
轟音と噴煙。ギルバートの義手が唸りを上げる。義手に紫色の筋が走る。体が吹っ飛ばないように、全身に渾身の力を込める。
「全てブチのめせ……!!俺の拳ッッ!!」
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