第37話 もう一度

 駆け巡った過去の記憶。


 それを引き裂くような全身の痛みに、ギルバートは眼を覚ました。


「……ぐッ……俺は……」


 薄く開いた眼。微かに見えたのは、嗤う『奴』の姿。


「ははは……じゃあ終わりにしようか」


 仰向けに倒れたギルバートの眼前で、腕を擦る男。『勇者』を名乗る、男。


「魔槍…血蛞蝓…」


 転生勇者。その白い腕が、槍のような形に変わっていく。


「貫け……」


 転生勇者の槍、『血蛞蝓』が、ギルバートの胸部を見据える。そして一瞬の内に、放たれる。


 そうだ。


「ううァあああッッ…!!」


 ギルバートは痛む身体を何とか翻し、食らいつく槍の先鋒をかわした。


「おっと…」


 すんでのところで攻撃を避けたギルバートに、転生勇者は目をくれる。


「何だ…まだ生きてたのか。ずっと黙ってるから死んだのかと思ってたよ」


 ギルバートは立ち上がる。


 彼の前に立つ男。転生勇者。


「まあいい。また遊んであげるよ。お前が無意味な死骸になるまで…ね」


 槍状になった腕を元の形に戻し、勇者はギルバートに向かってゆっくりと歩む。その眼は、一匹の獲物だけを見ていた。


 ギルバートは右手を固く握る。短くて長い夢を見ていた。過去を写した鏡を見ていた。


「そうだ…。俺は……」


 右の拳を固く握る。かつて失った右腕。その感触を、確かめる。


「俺は……」


 右腕が、冷たく軋む。ギルバートの肩から伸びる機械の右腕。転生勇者との戦闘で剥き出しになった義手の鈍い輝きが、ギルバートを現実に引き戻した。


「俺は奴をブチのめすんだ……」


 こちらに向かってくる勇者。偽りの勇者に、ギルバートは機械の右腕を向けた。


 銃口のように開かれた掌に、意識を集中させる。


「おや…?何やら妙なことをやろうとしているようだが……お前に一体何が出来る……?ゴブリン如きが、勇者である僕に対して……何が出来る?」


 転生勇者の腕が隆起し、歪に形を変えていく。白い腕が粘土のようにねじまがり、鋭い凶器に変わる。


 剣となった腕。その刀身を舐め、転生勇者は構えた。


「いいや…。何も出来ないね。お前だけじゃない。魔族全てが…僕らには敵わない。そこらで野垂れ死んでるカスどもがその証拠だ。将軍とか言ってたあの魔族も…結局は何も出来ず死んだ。お前ら魔族は…勇者に滅される運命なんだよ」


 構える勇者。その姿を捉えるギルバート。


 勇者の言葉を聞いて、ギルバートは少し、笑みを浮かべた。


「くくッ……出来るさ……」

























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