第35話 翼蔽
烈風の余波が怪物を吹き飛ばす。
怪物の身体が木々に衝突し、倒壊するそれに怪物が飲み込まれる。
「げァああッッ!!」
樹木の下敷きになった怪物は短く唸り、地面に染み込んだ。
黒い影となって、身体を押し潰す樹木から這い出、呆気にとられているギルバートに向き直る。
「ぎィああッッ!!」
風の砲撃に吹き飛ばされた怪物の脚が再生する。地面に触れたどす黒い液体が、氷のように固まって、脚を形作る。
「おい!何をぼうっとしているッ!貴様の敵から目を離すなッ!」
後方から投げ掛けられた声が、ギルバートの意識を取り戻す。
左腕に残った痺れ。地面を抉った風の跡。ギルバートは、己が置かれている状況を再認識した。
「貴様は魔族だ。例え見てくれが醜悪で、力が矮小であっても、その事実は変わらない。貴様ら魔族は忌々しいことに…体内に魔力の貯蔵器官を持って産まれてくる。今まで意識することも無かっただろうがな」
ギルバートが振り向く。だがそこには誰もいない。
「敵から目を離すなと言った筈だが」
強引に、顔が怪物の方へ向けられる。去っていった筈の勇者が、すぐ横に立っている。
「ゆ…勇者…」
「貴様の身体…魔力を司る器官は今、『
「魔核…俺たちが掘り出したあの石…か…」
「体内に魔力を持つ魔族があの石に触れると 、魔力が器から溢れ出て一時的な暴走状態に陥る。貴様が放った風の魔術はその産物だ。暴走した魔術の威力は絶大だ…。身体への代償も大きいが…な」
ギルバートは左腕の痺れが、激しくなっていくのを感じていた。掌から始まったそれはまず上腕へ到達し、肩へと進んで、やがて上半身を蝕んでいった。
「ぐ…はッッ…!!」
抗えきれぬ程の疲労感がギルバートを襲う。
ギルバートはその場に伏し、痺れが回って動かなくなった身体を見ることしかできなくなっていた。
「な…まだ…奴は…生きているのにッッ…」
指の一本すら動かすことの出来ないギルバートは、こちらの動向を探る黒い怪物を見た。
一度は吹き飛ばした脚も、何事もなかったかのように復活している。このまま寝ていては…。
「く…そッッ…!死んで…たまるかァ…」
「……覚悟はあったか……」
足掻くギルバートを見て、勇者が彼の前に進み出る。怪物からギルバートを庇うように立った勇者。首に巻いた赤い布が、翼のように風に靡いた。
怪物と睨み合う。先程の一撃を警戒してか、怪物はその場から動かず様子を伺っている。
「貴様がプライドも見せないまま死ぬなら…別にそれでも良かったのだがな。貴様が魔族としての立場を自覚したお陰で…俺の手間が増えた…。魔族というのは…本当に忌々しい奴らだ……」
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