第31話 勇者
「ッギィッッ…!!」
声にもならない叫びが化物の口から漏れる。
白い煌めきに両断されたそれは、空中で氷のように溶けて地面に染み込んだ。
「黙示録の怪物…見つけたぞ『伏撫』」
地面に染み込んだ黒い怪物は、影のような姿のまま主人の元へ帰り、その身体の中へ潜り込んだ。
倒れたままのギルバートは放心していた。状況が掴めない。誰が、あの怪物を切り裂いた?
「これはこれは…貴方がどうしてこんなところまで…?何の御用件で?」
怪物を身体の中に『収納』した仮面の男は、不適な笑みを浮かべて眼前に立つ男を見た。仮面が僅かに震えて、口元には微かな歪みをたたえている。暗く冷たい殺気が空間を覆い尽くした。男は、処刑に邪魔が入ったことを快く思っていないようだった。
「とぼけるなよ、メレノ・アステリアス。諜報組織『伏撫』が王都の民衆を煽動し、俄に
黒い怪物を斬り伏せた男は、携えた刃の切っ先で仮面の男、メレノを指した。
「エルメェル伯爵…?いやァ~私どもはあの方とは何の関係もございませんので…」
メレノは潔白を証明するように両の手を掲げた。外見では反逆の意思など更々無いように見えるが、その仮面の中で、どす黒い炎が瞳の中で燃え盛っていた。
「まあ…私を拘束するのはいいんですがね…。一つ気がかりな点がありまして…」
メレノは両手を挙げたまま、視線をギルバートに移した。
「どうして魔族を討滅する筈の貴方が、魔族の…それもそんな薄汚いゴミに肩入れしたんですかねェ…?貴方の存在理由は…魔王の討伐でしょうがァ…!『勇者』イルミス・クルセイズさァ…」
赤い首巻きが刹那、風に靡いた。
メレノが全てを言い終える前に、『勇者』がメレノの懐に潜り込んだかと思うと、彼の
「ぐぅばァッッ…!!」
「薄汚いゴミ…今俺の視界にある薄汚いゴミは、貴様だけだ。余計な口答えをするのなら容赦はしない」
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