第24話 熱狂

薄く、黄金色の光の筋を放ちながら輝くその鉱石の噂は、瞬く間にゴブリンの間で広まっていった。


 金品を好むゴブリンは連日その山を訪れ、次々と鉱石を掘り出しては持ち帰って貯蔵した。


 その情報がどこから漏れたのか、その頃から人間がゴブリンの生息地に寄りつくようになった。時には、軍の斥候が鉱石に訪れ、ゴブリンを監視するような素振りを見せることもあった。


 日中、ゴブリンが巣穴の中で身を潜めている隙を伺って、一般人が鉱山から輝く石を掘り出して持ち出すことも多々あった。


 だが、それはあくまで日中の出来事。日の光を嫌うゴブリンは、わざわざ巣から這い出して鉱山に立ち寄る人間に牙を剥くことはなかった。


 通常ゴブリンは、夜行性である。その青い眼も、夜陰に紛れて獲物を狩ることに特化している。


 光を浴びながら人間と戦闘したところで、ゴブリンは非武装の素人にさえ到底敵わないだろう。暗闇に慣れているゴブリンの青い眼は、彼らの戦闘力を奪ってしまうからだ。


 太陽が地上を監視する時間には、人間が鉱石を掘る権利を得て、夜陰が天上まで呑み込んだ時間には、ゴブリンが鉱石を掘った。


 両者は相容れない存在であったが、決して出会うこともない。よって、対立することもなかった。一方がもう一方の領域を侵さない限り、この奇妙な共存関係は続く筈だった。


 だがある日の昼下がり。太陽が地上に光をもたらしていた時に、血腥ちなまぐさい虐殺は起こった。


 輝く鉱石が人間世界にとある変革をもたらし、その価値が急騰したからだ。


 その変革とは『魔術』の実現。


 兼ねてから人間世界には魔術は存在しなかった。人間は魔族とは異なり、体内に魔力を備えていなかったからだ。魔族を研究して、魔法の詠唱法や術式などを解明する技術はあっても、『魔力』。その一点の要素が欠けているばかりに、人間は積年の夢を実現することができないでいた。


 だが、ゴブリンが居着く鉱山から産出された奇跡の石は、その問題を見事に解決した。


 たった一欠片にさえ膨大な魔力を蓄積したその石は、人間の身体に魔力を充たすことのできる唯一の道具だった。


 ある日、王国によってその事実が知らされると、夢のような力が遂に自分たちのものになると、人々は沸いた。歓喜し、狂喜し、熱狂した。


 宝石のような見た目に釣られて、金以外の目的もなく鉱石を掘っていた人々は、更に強くその鉱石を求め、衝撃の事実を知った人々は我先にと鉱山に押し寄せた。


 だが、その時。熱狂的に渦巻く欲望をかき混ぜて、民衆の意思を歪な形で統一しようと企てた者がいた。

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