第23話 狩り

 薄れ行く意識の中で、ギルバートは懐かしい声を聞いた。


 笑い声。自分を、自分たちを嗤う声。


 あれはまだ、ギルバートが幼かった頃だった。


緑鬼ゴブリン狩り』が行われたのは。







「おい!まだいやがるぞこの中に!この巣の中に薄汚ェゴブリンどもがまだまだいやがるぜ!」


「きっと金品を隠してやがる!殺せ!引きずり出せ!俺たち人間の財貨を奪ったゴミどもは皆殺しにしろ!」


「汚ェ顔しやがって…その醜い面を見せるな!!」


緑鬼ゴブリン狩り』。ある者はこうや呼んだ、『ゴミ収集』と。


 ゴブリンの戦闘力は、高くない。戦闘訓練を積んでいない農民でも武装さえすれば、十分相手が出来るような魔物だった。


「散々貯め込みやがってッ…これは俺たちが…俺たちの先祖が血肉を賭して守ってきたものだッッ!!それをお前らがッッ!!」


 ゴブリンは薄暗い場所を好んで棲息する魔物だ。光を嫌い、日中は洞窟にこもり、夜陰に乗じて棲み家近くを通る冒険者に襲いかかる魔物だった。


 だが大抵の場合は返り討ちに遭い、斬り捨てられ、叩き潰された。冒険者も、近隣の農民も、誰もゴブリンのことなど気にかけてはいなかった。


「返せッッ!!返せッッ!!」


 だが、『狩り』は突然始まった。


 ゴブリンは金品を好み、洞窟に貯め込む習性を持っていた。他の魔物に襲われて死んだ人間の遺体から、装飾品や武器を収集することがあった。


 だが、そのようなゴブリンの行為を知る者はいなかった。


 手練れの冒険者が殺害されるような危険な場所に寄りつこうとする人間がそういなかったのも理由の一端だが、ゴブリンの習性を認識している者がほとんどいなかったのが本当の理由だ。


 だから、ゴブリンの巣に乗り込んで財宝を略奪するなど、一般人は考えもしなかった。


 戦闘力の劣る、危険性の低い魔物に対して殺意を向けることなど、あり得なかったのだ。


 だが。


「死ねェェええええッッ!!卑しい略奪者めェッッ!!」


 煮えたぎる殺意と欲望の渦のなかで、『狩り』は始まった。


 その虐殺が始まったのはちょうど、とあるゴブリンが棲息していたある山から、仄かに輝く鉱石を掘り出してしまった頃だった。























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