第22話 背負うもの

「転生…勇者…?勇者…だと…?てめェが…?」


 脱力した状態で頭を鷲掴みにされたギルバート。泥にまみれて、勇者に問いかける。


「そうだよ?何か文句があるの?」


『勇者』という単語が口にされた途端、ギルバートはまさに鬼のような形相となって勇者を睨みつけた。食い縛った牙が、喉の奥にぎりぎりと鈍い音を響かせる。


「てめェみてェな…遺体をいたぶる悪趣味な野郎が勇者だと…?はッ…笑わせるな…!勇者ってのはなァ…てめェごときが名乗れるほど軽い称号じゃねェンだよ…」


 ギルバートは口から血を流しながら、眼前の自称『勇者』に厳しい視線を送った。


「……あのなァ…お前は自分の状況が解ってんの?」


 転生勇者はギルバートの頭を掴んだまま、空いている方の手で彼の腹を殴打した。


「ぐほッ…」


「なーにが『称号』だよ。僕が勇者であることにお前みたいなカスがケチをつけていいと思ってんの?」


 勇者は腹部への殴打を続ける。ギルバートの喀血は激しくなり、足元には血溜まりが作られた。


「ぐはァッッ…!」


「大体さぁ…」


 勇者はギルバートを掴んでいた手をさっと離し、満身創痍のギルバートに蹴りをぶちこんでまた、吹き飛ばす。


「何で勇者であることに条件が必要なワケ?」


 勇者は地面に伏すギルバートの方へ歩み寄っていく。


 そして、仰向けになって短い息を吐くギルバートの腹を踏み潰した。


「ぐッ…ああ…」


「『勇者』って言うのは『魔物』を成敗する生き物なんだろ?だから僕は勇者なんだ。絶対的な『悪』である魔族と対峙する僕は、紛れもなく『善』なる勇者だ。『善』の側にいれば、大抵のことは正当化されるし黙認される。僕は『殺し』を求めて勇者になった。こっちの世界で勇者として存在していれば…何のくびきもなく僕は『殺し』という悦楽の渦に…身を浸せるからねェ…!!」


 勇者は狂気的な笑みを浮かべてギルバートを踏みにじる。どす黒い眼球からこぼれる一筋の光さえも、濁ってくすんだ悪意の塊のようだ。


「勇者であることに下らない美学なんていらない。僕の享楽が誰にも邪魔されないのなら…それでいいんだよッッ!!」


 勇者はギルバートを蹴り上げた。舞い上がったギルバートに肉薄し、後頭部を捉えて勢いよく地面に叩きつける。


 それだけでは飽き足らず、勇者はギルバートの顔面を何度も地面に叩きつける。まるで叩頭。罪を謝罪させるかのように、何度も何度も土への接吻キスを強要する。


「ほらァ~懺悔するんだよッ!!醜く頭を擦り付けて…卑しい魔族の務めを果たすんだよッッ!!」


 ごつんと、頭蓋が固い地面と衝突する音が響く。ギルバートの赤い首巻きは、額から流れ出した血液によって赤黒く汚れている。


「勇者様に逆らって申し訳ございませんって…」


 ギルバートの鼻は折れ曲がり、歪な装飾となって地面に押し付けられている。


「魔族に生まれてすいませんって…鼻水垂らして悔恨するんだよッッ!!」


 特に強烈な押し込み。


 その後に勇者の手が止まる。


 ギルバートがもはや動いていないことに気がついたからだ。


「あ~?もう逝っちゃったの?はァ~つまんね」


 勇者はうつ伏せになったギルバートの身体を蹴って、仰向けにした。


「ぷッ…酷ェ顔…。僕のせいかな?いや…違うな…。こいつが『緑鬼ゴブリン』だからだ!!醜い顔のゴブリン!!弱いし不細工!!救いようがねェなァ!!あッははははははははは!!」







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