第21話 ReSpawn

「面倒クセェ…モウ終ワリニシヨウ」


「何だと…?」


 勇者は、鎌状になった腕を元の形に戻し、ギルバートを見た。


 勇者の顔は笑っている。だが、痺れるような殺気が、ギルバートまで伝わる。


 勇者は白い指を、自らの首に突き立てた。


「てめェ…何してやがる…」


「永劫…回帰」


 刹那、勇者は自らの首を、自らの手で掻き切った。


「何ッ…」


 白い身体から、灰のように曇った色の液体が流れ出て、地面に落ちる前に霧のように消える。


「妙な真似を…」


 やがて、勇者の首から勢いよく吹き出す『血液』の霧は、はっきりとした形を持って、勇者の身体を覆い始めた。


 何かを察したギルバートは、勇者に向かって走り出した。この『儀式』、阻止しないと不味い。


 灰色の霧に包まれていく勇者に飛び掛かる。


 弓のように引いた拳が風を切って勇者に襲いかかるが、手遅れだった。


「…ッ!」


 拳は風を掠めて空を払った。そこに捉えたのは勇者ではない。勇者もまた、霧とともに空気の中に溶けていった。既に、そこに勇者の姿は無い。


「くそッ…遅かったか…これはマズイことになりそうだ…」


 突き出した拳を顎の前に戻し、ギルバートは直ぐ様構えを直した。勇者の姿は消えても、心臓を射抜くような殺気はそこにある。勇者の次の手は、着実に魔物を追い詰めていた。


 一瞬、ギルバートの背後で空気が揺らめく。背を狙う異様な気配に感づいたギルバートは、直ぐ様背後に裏拳を繰り出した。


 だが感触が無い。先程と同じく、拳が虚しく空を駆けるだけだ。


「馬鹿だね」


「ッ!」


 天から声が響く。殺気とともに、降り注ぐ。


「これだから雑魚は相手にしたくないんだよね」


 ギルバートが頭上に一瞥いちべつをくれた途端、彼の首元に重い衝撃が走る。


 みしみしと音を立てて首にめり込むのは、足。空中から『降ってきた』何者かの足が、ギルバートを捉えていた。


「えはッッ…」


 鈍い痛みが、ギルバートを蛇のように締め付ける。視界が暗転する。


「ほらもう一発」


 首に噛みついていた足が離れた直後、朦朧とするギルバートの顔面に、鉄槌がめり込む。追撃のもう一蹴りが、ギルバートの鼻を破壊した。衝撃に耐えられずギルバートは、後方へ大きく吹っ飛んだ。


「ぐァああああッッ…」


 地面を抉り、激しく砂埃を上げながらギルバートは吹っ飛ぶ。地面を削りに削って、ギルバートは土くれの枕に横たわった。


「無駄だってことに気づきなよ。君は僕を殺せない。まあ万が一、君に殺されたとしても、僕は。『永劫回帰リ・スポーン』…。この能力がある限り、殺されても殺されても殺されても殺されても殺されてもッッ…僕は絶対に負けない。君が…いや…魔族全体が今やってることは…無為に等しいんだよ。僕が殺した…名前は忘れたけど…そこで死んでる将軍も…君も…魔族は勇者の威光の前に死に絶える運命だったんだよ。だからもう諦めなよ」


「ン…だと…?」


 這いずりながらギルバートは前方を見る。


 見えたものは、白い足。あの怪物か。ギルバートは思った。だが、何かが違う。こいつは、さっきまでの白い化物とは違う。


 ギルバートは、首を上げた。


「ッ…!」


 そこにいたのは人間だった。先程までギルバートが戦っていた、白い怪物と同化したような姿の人間が、そこには立っていた。


 白い四肢が、体から『生えて』いる。黒い血管が走って、それを繋ぎ止めているかのようだ。


 顔面は人間のものでありながら、異様であった。どす黒い眼球に白い光が灯っている。


「お…前は…」


 這いつくばるギルバートの頭を掴んで、勇者は粗雑に持ち上げた。


「君には申し遅れたね。僕は『転生勇者』。君たちとは違う世界からやって来た、神の申し子さ。君たち魔族を根絶するために、『旧』勇者に変わって、こうやって君たちを殺す権利を得ているのさ」






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