第26話 地上で最も暗い場所
「死ねェーーーーッッ!!」
人間たちの行動は早かった。衝動に任せて凶器を握り、煮え立った頭のまま虐殺現場へと向かっていく。正常な判断など、彼らにとって必要でなかった。
ゴブリンが嫌う日の光を背に、人間はゴブリンに対して宣戦布告した。
巣穴に閉じ籠るゴブリンたちを、引きずり出して殺す。たったこれだけの計画だったが、彼らにはある作戦があった。
たとえゴブリンが弱体であろうとも、不用意にその巣穴に潜り込むことは自殺行為に等しい。灼熱の光線が降り注ぐ洞窟の外に引きずり出せればゴブリンは無力同然だが、薄暗い洞窟内部は彼らの独壇場。潜り込んだ人間が返り討ちに遭う。
そういった被害を防ぐため、人間はゴブリンを引きずり出さない。
人間の造った道具が、ゴブリンを暗い穴から追いたてたのだった。
ゴブリンをはじめとする魔族全般が嫌う、神の加護を受けた聖なる植物『ワリジャ』。それを擂り潰して粉末状にする。その粉末を枯れ草などの着火材とともに瓶に詰め、瓶の口から火を着けて、煙を発生させる。
そうして出来た、煙を放つ瓶を洞窟の中に投げ込む。すると、魔物を追い立てる毒の煙が洞窟内に充満し、ゴブリンはたまらず外に飛び出してくるのだった。
「おらァッッ!!」
洞窟の外で激しく咳き込み、吐瀉物をぶちまけるゴブリンを、各々の凶器が襲う。
ゴブリンは、棍棒で頭蓋を粉砕された者、首筋を短剣で掻き切られた者、重い剣で叩ききられた者など、実に様々な方法で殺されていった。
「人間の邪魔をする気なんだろう!?なら死ぬがいいッッ!!」
「ギャッッ!!」
「我らの権利を返してもらおうッッ!!」
「ぐァッッ!!」
「薄汚い魔物がッッ!!」
「ぎェーーーーッッ!!」
積まれる。積まれていく。残虐に処理された死骸が、山となって人間の後ろに累積していく。
殺害という体験に高揚を覚えた人間は、ゴブリンの死骸を見て嗤った。汚ェ顔だ。生物とは思えねェな、と。
そして笑いながら、次の獲物を探すのだ。穴から這い出して息も絶え絶えになっているゴブリンを引っ捕らえては片っ端から狩っていく。
獣のように血走った目で獲物を探す人間。積み上げられたゴブリンの死体。それを見て嗤う人間。無残に打ち捨てられたゴブリンの屍。
太陽が照らす大地に暗く陰を落としたのは人間の欲望。
この日、地上で最も暗かった場所は魔族が棲み着いた
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