第7話 絶頂から

「さァーて、雑魚も片付けたことだし、僕の魔族皆殺し計画を実行しちゃおうかなァ」


 邪悪な笑みがゆっくりと消え、勇者は自らの破壊、その跡をまじまじと見つめた。満足そうに見つめるそこに、彼の前に立ち塞がった骸骨の姿は無い。彼は、荒涼とした草原を見て、改めて己の力に陶酔する。


「いやァ~僕ってやっぱりすごいなァ…。やれやれ、全く困っちゃうよ。転生したら、一気に人生が一転したけど、これも僕の本来の力ってワケだよね。クソみたいな『現実世界リアル』は、あくまで僕の『経験』の一つだったワケだろうね。こうしてみると。実にそう思うよ。僕をいじめていたあのクズどもと一緒に勇者として転生してきたとき、とてつもない吐き気に襲われて、自殺しようかと思う程悩んだけど…それもぜェーんぶ杞憂だったなァ…。アイツら僕を雑魚呼ばわりしたくせに、結局何の役にも立たないゴミ魔法しか習得できずに、僕に殺されちゃうんだもんね。邪魔物を排除した後、僕は美少女に次々求婚されて、今じゃ十人以上を『飼』ってるもんなァ~。上手くいきすぎてツラいね」


 勇者は戦場にきびすを返して、独り言を呟きながら魔王城に向かって進んでいく。


 今や、彼の脳からは先程消し飛ばした骸骨の

 記憶は薄れかけていた。


 彼は転生勇者となってから、気に入らない人物を好きなだけ手にかけてきた。いじめっ子、思い通りにならない女、自らの先輩勇者でさえも、『ムカつくから』という理由で歴史から葬ってきた。


 だからこそ、殺した相手のことなどいちいち覚えている暇などない、と考えているのだ。主人の倫理観に感応して、彼の脳もそのような機能を作り出すに至った。アルダシールも、彼の中では、『覚えている価値の無い何か』として処理されつつある。


「よォ~~し!じゃあ、行こうか。魔王を殺しに。精々僕を楽しませてくれればいいけど…まあ無理だろうね。僕、最強だから。うーん…そう考えると、どうしようっかなァ~魔王を最後のお楽しみにとっておいて、他の魔族をなぶってブっ殺すのもまた一興、っていう感じかな。よし!そうしよう!魔族を浄化してから、魔王を殺してしまおう!それで僕はこの世界の支配者になって…何もかも思い通りにするんだ!あらゆる権力も快楽も僕のものにしてェ…新たな王として君臨しよう!」


 勇者はそう思い立つと、指を二本揃えて、胸に添えた。


「『転移魔法ソアー』ッ!!」


 勇者の体が、青白い光に包まれていく。勇者はこの時、将来への希望、疑う点が一切ない約束された未来への大望を抱いていた。目は輝き、口許には大きな笑みをたたえて。これから始まる『勇者』としてのストーリーが、現実世界を忘れ去るための新たなる旅立ちが、始まることを予感して飛び立とうとした。


「さあ、行こう。僕は勇者だ。正義を実現するために!この世に光をもたらすために、魔族の汚れた血を、一滴残らず浄化しよう!勇者としてのサクセスストーリーのために!僕の前途は希望に満ち溢れている!約束されているんだ!ああ…なんて気分がいいんだ!僕に楯突くクズは死に、僕に従う奴隷だけの世界の実現がすぐそこに!よォ~~~し!!しゅっぱァ……………………………………」









「あ?」








 

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