第6話 立ち塞がれ、力の限り

 アルダシールは叫んだ。力の限り。そして、二本の剣を携えて、目の前に迫る『クラッシュ』に立ち向かった。


 破壊魔法と肉薄する距離。一瞬で迫る。アルダシールは、魔法に呑み込まれる直前で、地面を強く踏み込んで急停止した。そして、その勢いを利用して、身体を捻り、二本の剣で前方を切り払おうとする。だが、アルダシールの刃よりも先に、破壊魔法が彼の体に接触した。魔法の方が、僅かに速い。


「馬鹿がッ!!今回の『クラッシュ』を甘くみたなッッ!!最大出力の破壊魔法…!!さっきとは威力も速度もまるで違うッッ!!触れた瞬間お前の体など木っ端微塵だッッ!!さっきみたいに少しの間でも耐えられると思うなクズがッッ!!!そのまま死ねッッ!!」


 勇者から放たれた破壊魔法が、アルダシールを襲う。体が、凄まじい振動に震える。アルダシールを跡形もなく消し飛ばし、その名残さえ残さない、そんなどす黒い意思が、その魔法には込められていた。


「なァにが『魔族の恐ろしさ』だァ!?お前らはぜェんぶゴミにすぎないんだよ!!ゴミはゴミらしく無様に負けて滅ぶべきなんだよ!!さっきも言ったけどォ魔族なんて所詮薄汚い下劣な種族なんだ!!僕に楯突くのがそもそも間違いなんだよォッッ!!!」


 アルダシールを呑み込んだ破壊の魔術が、唸りをあげる。地面は抉れ、空間は歪んでいる。凄まじい威力だった。アルダシールの体に、一瞬でひびが走り始める。


 バチバチと、何かが弾けるような音が響く。アルダシールの体が、崩壊しているのだ。


「消えて失せろッッ!!!お前を消したら他の魔族も殺すッ!!女子供も殺すッ!!老体の魔族も殺すッ!!魔王も僕の手で殺すッ!!どいつもこいつも皆殺しだよォッ!!」


 勇者が叫ぶと同時に、眩い閃光が放たれ、戦場を一瞬白く染めた。


 閃光の後、アルダシールがいた場所には、彼の剣も、鎧も、兜も、骨の破片さえ、何一つ残っていなかった。


「ーーーーーッッ!!」


 勇者は、歪んだ笑みを浮かべた。満面の笑み。顔面をぐしゃぐしゃに歪めながら、よだれを垂らしているのにも気付かないで、自らの完全勝利に酔いしれた。


「ーーークッッ!!くききききききききききききききひィーーーーーッッ!!クズが!クズが!クズがァーーーッッ!!!格好つけて何も出来ないクズッッ!!無駄な足掻きお疲れ様ァーーーーッッ!!!はいおしまいッッ!!魔族はやっぱり雑魚種族ッッ!!!浄化されるべき汚れた種族ッ!!生きてる価値の無いゴミに決定しましたァーーッッ!!僕に喧嘩を売ってこの様ッッ!!きィひひひひひ!!笑いが止まらないよォッッ !!」


 勇者は笑い続ける。己の勝利に延々と。ただただ嘲弄。愚弄。邪悪な笑みを浮かべて、全力で体を反る。快感に悶えながら、反り返る。











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