第5話 漆黒の雷

「…覚悟は良いか…転生勇者…。魔王軍の矛として。骸骨スケルトンの王として。そして…誇り高き魔族の一員として、俺は貴様をブチのめす」

 

 骸骨騎馬隊長、アルダシールはここに真の姿を現した。得物を失った二本の腕に握られる双剣は雷。髑髏をあしらった漆黒の刃が、降りやまぬ雷鳴を受けて光輝いている。剥き出しになっていたアルダシールのからだを覆うのは雷雲。黒よりも黒く、深淵よりも暗く。鎧の形を成して、アルダシールに絡み付く。魔族の矜持を象徴するのは、兜。天を衝き、月を砕くような角が、左右一対屹立している。


 漆黒の雷は、徒手空拳の骸骨を魔軍の将と為し、輝く覚悟と燃え続ける闘志は、一介の魔物を魔王の幹部と為した。今、勇者の目の前に立つ骸骨の王アルダシール。この魔将は空気が凍てつくような鋭い覇気をもって、その信念と実力を戦場に見せつけていた。語らずとも、その立ち姿がそうしていたのだ。


「転生勇者。さっきの勝負は俺の敗けで良いぜ。だがもう一度だ。もう一度やろうぜ。互いに退けない状況、断るなんて、不粋なことはしないよな?まさか」


「あ…?対等…そう言いたいのか…?お前…?卑しく醜いクズ同然の化物が…?くそォッ!!魔物風情がッ…!!神と対等だなんてッ!!思い上がりも甚だしいぞーーーッッ!!復活なんて出来ないくらいッバラバラに分解してやるッ!!『クラッシュ』ッッ!!」

 

 全てを霧のように消し去り、痕跡すら残すことを許さない。それが、破壊魔法『砕』の特徴であり、翠勇者シン・ベルトという男の本質であった。確固たる抹殺の意思を孕み両腕から放たれたそれは、この転生者の排他的な性情を体現しているかのようだった。


「僕の理想郷からッ!!お前らみたいなゴミは除かなきゃいけないッ!!この世界の人間も魔族も動物も神もッ!!僕の機嫌を害する

ものは全て消してやるッッ!!この世界に必要なものはッ僕を慰めてくれる美少女だけなんだッッ!!それ以外はぜェ~~~~ッんぶ邪魔だ不要だ障害だッッ!!!」

 

 勇者の掌から放たれる波動を受けて、この世界が悲鳴を上げている。空間が歪にねじ曲げられ、裂ける。耳をつんざく不快な高音が辺りに満ち始める。あるがままの姿を奪われた『世界』そのものが、破壊の魔術を拒否している。決して抗うことは出来なかったが。


「ここまでの力を神から与えられながら、他に何を望む?何が貴様をつき動かす?俺には、到底理解出来ぬ感情だ…!!」

 

 二本の剣で体の前面を覆うようにして立ち、空間を喰らいながら猛進する破壊魔法を、構えの隙間に垣間見る。


 逃げるという選択肢は、魔物には許されていない。いかに『勇者』が強力であろうと、決死の覚悟が無駄な足掻きに終わろうとも、要衝を任された『魔物』は無傷タダで勇者を通らせてはならない。奉載する魔王のために、醜く勇者の足を引っ張らなければならない。それが魔王の下僕であり、魔物である。


「エセ勇者ァッッ!!魔王様の下にはァッッ!!この身滅びようと、魂魄燃え尽きようとッッ絶対に行かせんッ!!魔族の恐ろしさッッその身に刻み、去るがいいッッ!!!うォおおおおおおおおォーーーッッッ!!!」

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