第1520話 口移しチェリー

「ねえ、口移ししてあげようか?」

パフェの上に乗ったさくらんぼを手に取り、俺の目を見て彼女はそう言った。俺と彼女は、まだ付き合っていない。そうまだだ。だがこうして今、カフェでデートしているのだから、十分にチャンスはあるのかもしれない。

「して欲しいな」

素直に答えた。すると彼女は微笑んで、さくらんぼをそっと自分の口に咥える。ゴクリッと喉を鳴らした俺の目の前に、彼女の顔が近づいてくる。そして彼女の口からさくらんぼを受け取った。

「ありがとう」

彼女が微笑みながら俺に言った。何を感謝されているのかは、よく分からなかった。夜になり、彼女の家へと向かった。これからもっと凄い事が起こるのではないかと期待して、風呂に入って鏡で自分の顔を見た時、異変に気付いた。

「俺の口がなくなってる」

「ふふ。あなたの口、私が貰ったの。だから言ったじゃない。”口移し”してあげようかって」

そう言って彼女は、微笑んだ。

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Akiyu短編集~千物語~ 富本アキユ(元Akiyu) @book_Akiyu

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