第1517話 夏蜜柑

蝉の声がうるさい。外から鳴き声が聞こえてくる。外に出なくても分かる。太陽が照り付けて肌が焼けるような猛暑だ。倒れてしまいそうな程の熱が、体全体に襲い掛かる。

こたつに入る。彼女は、額に汗を掻きながら蜜柑を食べる。そんな彼女の姿を見た浩紀は、至極真っ当な質問を投げかける。


「なんでこの暑い中、こたつに入って蜜柑を食べてるんだ?」

「だって夏蜜柑を食べるってそういうことでしょ?」


彼女は当たり前のように答える。ついに暑さのせいで頭がおかしくなってしまったのだろうか。そんな考えがほんの一瞬だけ頭を過ったが、いや違う。これは彼女の通常運転。こういう子なのである。


結婚して初めて一緒に迎えた夏。そんな彼女の一面を見た浩紀は、夏蜜柑の花言葉を辞書で調べた。


夏蜜柑の花言葉は「花嫁の歓び」


こうやって浩紀をからかって戸惑わせて、その反応を楽しむ事こそが彼女の、浩紀の花嫁の歓びなのである。

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